代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第145回 半年後の飛躍の鍵、空いた時間を何に使うのか?もう一つの事例に学ぶこと。

リーマンショックのさなか、もう一つの会社が取り組んだ事例をご紹介いたしましょう。この会社は、元々は東北地方で拡大されて、東京に進出した企業です。東京に進出した翌年に、リーマンショックがやってきました。資金繰りが厳しくなり、東京事務所も、縮小移転をします。

そのさなかに、Y社長からご相談を受けました。「今は本当に大変だけど、この後に全国に展開したい。そのための準備をしたい。」社長が幹部候補として上げた人数は15名いました。

とはいえ、予算的には難しいということで、社長を含めた4名からスタートすることになったのです。

Y社長は、言いました。「まず、この4名で成果がでたら、次も必ずやりますから。」


Y社長は1人で事業を始めて、業態を変えながら人材ビジネスで会社を倍々にしてきました。地元では大成功者と称えられるようになり、「このままでは自分はバカになる」と、東京に進出してきた方。「東京の人間は優秀だけど、尖ったところがない。」というのが口癖でした。

Y社長は、絵に書いたような創業社長でした。初めてY社長に怒鳴られると、若い社員は、顔面蒼白になって硬直する、とわれるほどの、激しさを持っていました。

倍々の勢いで売上げを伸ばした鍵には、創業20年立っても寝る間も惜しんでかけづり回るY社長の存在がありました。

ところが、東京進出後に、Y社長のやり方が東京のメンバーと上手くすり合わないと、Y社長は感じていたのです。

東京で採用したメンバーは、出身地では出会えない様な優秀な社員がいるといいながらも、Y社長自身は、そのメンバー達の力を上手く使えていないと考えていました。

Y社長自身も、やり方を変えたくても、どのようにしたらいいか、よく分からないので、成果が変わるやり方があるなら、それを試してみたい、とのことでした。

また、業績が下降する中、対応も一巡すると、現場の稼働率が低い状態が続きました。実はこれが大きな契機になったとY社長は後にこの当時を振り返って言っていました。

東京市場開拓で、夜も昼もなく働いてきた時には、東京の社員の扱いに疑問を感じながらも、なかなかそれに向き合い、改善に取り組む時間的な余裕がなかった、と。

Y社長にも時間的なほんの少しできた。自分の部下達も同じ。ならば、今こそ、今後への投資をしようじゃないか、Y社長の決断でした。


当時59才だった社長は貪欲に学ばれ、実践されました。すぐにその成果を実感されると、6ヶ月の終了を待たずに、第2期目として、次の4名のプログラムをスタートさせました。

社長曰く、「これだ!これだ!これだ!」と。

「俺が怒鳴れば、シュンとなる。俺だって怒鳴りたくないよ。嫌な気持ちになるし、でも、それしかやってこなかったんだ!」「これでやったら、あいつら、優秀だから、ドンドン自分で動くじゃい。これだよ!」と大絶賛。

財務担当の取締役は大反対でしたが、Y社長は、「今やらないでいつやるんだ!」と一蹴したのだと言います。

そして、第3期、第4期と続きました。当時お会いした時は、グループ会社3社で、78億円でした。それが、今グループ5社で151億円の売上げです。Y社長は目下海外進出を狙っています。


レバレッジという言葉があります。元々はテコの原理のことで、という言葉で「ある所に力を集約させて、一気に飛躍させる」という意味で使われます。

組織にレバレッジをかける、これは、まさにマネジメントの仕方を変えることです。Y社長が手にしたマネジメントの仕方は、目の前の一人の部下が着実に能力を向上させるやり方です。

組織が急拡大する際に、更に重要なことがあります。それは、一般社員なら、作業力の向上、サービス力の向上でよいのですが、リーダー育成の場合は違います。

単に営業力が強い社員を集めただけでは、売上げは上がっても、組織はできない。Y社長のその後の拡大戦略を指させる人材にはなりえません。なぜなら、能力アップだけでは、リーダーとは言えないからです。

売上げを上げられる、技術者として高い技術を持っている。もちろん、会社にとっては大切です。しかし、拡大局面で大切なのは、専門職ではなくリーダーです。


拡大戦略を支えるリーダーというのは、社長から距離が遠い地域での支店長としてその支店を持続的に成長させる人物であることが求められます。

任されるリーダーに必要なのは作業技術ではなく、影響力です。営業の成績が良くても、トップセールスマンでも、支店長、支社長にはなり得ない。組織を動かす影響力が必要です。

Y社長が手に入れた手法は、リーダーの能力を引き上げるだけではなく、影響力を着実に高める手法です。だからこそ、あの15人が今、組織の幹部として、盤石な拡大戦略を支えているのです。

この15人は、Y社長の厳命により、その技術を使い続けています。そして、今では、それが組織の当たり事になっています。だから、その15人はもちろん、15人の配下の部下達、誰もがマネジメントに何の不安も持たずに、組織を運営出来ています。


私も以前、多店舗ビジネスの展開を実行したことがありますが、短期間に次々と拠点を拡大することは、実は難しいことではありません。その拡大した拠点が計画通り、数字を上げ、投下資金を如何に早く回収できるかが勝負です。当たり前だと思うと思いますが、多店舗展開では、いつもここでつまずきます。Y社長の会社にもスクラップビルドはありますが、通常の多店舗展開で起きる売上げ不振の店舗はわずか2-3店舗です。最近、話題となっているどこぞの会社の多店舗展開の後の、大量閉鎖という悲惨な結末とは大違いなのです。

この劇的な成長は、リーマンショックのさなかに作った。だからこそ、あの時、拠点が12拠点しかありませんでしたが、今、全国に42拠点、更に拡大中です。


さて、あなたの会社の場合は如何でしょうか?

混乱の後に着実に組織が飛躍する一手を打てているでしょうか?
それとも、まだ混乱の中にいて、時間を浪費しているでしょうか?