代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第111回 売上げが思うように伸びない組織の突破口

「やはりやり方変えると、ちょっと、違いますね。」以前、九州地方で広く店舗展開する企業で、第2期目のコンサルティングが5ヶ月目にさしかかった時のこと。次々に社内で新規部署を立ち上げてきて、社内では、誰もが一目置く存在であるMさんと面談している時、Mさんが照れながら言った言葉です。

Mさんの部下で52才のSさんがMさんの部署に配属になって2年。「Sさんには何を言ってもダメだ!」コンサルティング当初、MさんがSさんを評して何度も言っていた言葉。しかし、4ヶ月目、Sさんは、始めて月間売上予算を達成しました。


Mさんは、開拓精神が旺盛で、その会社の売上げの3つの柱の一つの事業を全くゼロから立ち上げたという強者。役員からは、功労者として一目をおかれていましたし、一部の社員からは、頼りになる親父として慕われていました。

しかし、一度でもMさんの部下だった人からは、あまり芳しい評判は聞こえてきませんでした。

実際、Mさんのチームの離職率は社内の平均から30%以上も高いものでした。「俺は人から指示されるのが嫌いやねん」そう言ってはばからないMさん。自他共に認める自由人。それがMさんでした。

ところが、自分では人からの細かい指示を毛嫌いするにもかかわらず、部下に対しては、重箱の隅をつつき、更につづき、そして、もう一度つつくという念の入りようと言いたくなるほど口を出していました。

MさんとSさんの打ち合わせに同席した時、最初から最後までほとんどMさんが話し、更に話、そして、話していました。時間にして90%以上、Mさんの口が動いていたのです。そのことをMさんに指摘すると、「だって、Sさん、何を言ったってダメ」だからという返答。


離職率が高い組織のリーダーにほぼ共通するのは、口数が多いことです。Mさんも例外ではありませんでした。特に、自らがそこそこの実績を持っている人は、自らのやり方に自信をもっていますから、知らず知らず、自らのやり方を相手に押しつけていくのです。

その押しつけという行為が、口数の多さとなって現れていきます。そして、ほとんどの場合は、そのやり方が習慣になっています。ですから、私のような第三者がMさんみたいな人に、「それは押しつけですよ」「押しつけは止めましょ」といったところで、何も変わりません。

2,3回言われたぐらいで変わるものを習慣とは呼びません。仮に、変えようと思ったところで、なかなか変わらない、それが習慣というものです。


そんなMさんに個別にコンサルティングが始まりました。面談の時のMさんの表情はさえません。表だって反論はしてこないまでも、半信半疑なのです。

そこで、まず、Mさん自身のパフォーマンスを改善するところから始めました。私と面談で決まったことをMさんに実践してもらいます。そこで成果が出始めるとMさんの態度が変わり始めたのです。

役員の方々は、Mさんの態度の変わりように驚いていました。私に対する態度だけではなく、
日常の勤務態度がまるで変わったというのです。専務は「Mは、体の調子が悪いのじゃないだろうか?」なんて言い出す始末でした。

そしてプログラムが始まって、3ヶ月目の終わりに、Mさんが私に言いました。「少し掴めてきた感じがしますよ」そして、4ヶ月目。あれほどダメダメだったはずのSさんが成果を出しました。

後日Mさんが教えてくれたのですが、それでもまだ半信半疑だったそうです。「本当にこれでいける」そう思ったのは、Sさんがその後3ヶ月連続して、予算を達成し続けた時でした。


マネジメントの問題というと、何やらぼんやりして、つかみ所のない感覚を持つ人は多いようです。実をいうと、以前の私がそうでした。「マネジメントのやり方が悪い」といわれても、何をどのように改善したらよいか雲を掴むような話にしか思えなかったのです。

でも、今は違います。計算式で証明はできないものの、物理法則に通じるある一定の因果関係の型があると思うのです。マネジメントが機能せず、上司が言っても、変わらない状態は、物理法則でいうところの、作用反作用の法則で説明できます。

上司が意識的、無意識的にかかわらず、部下に対して口数多く、部下を押しても押しても部下が動かない時、部下もまた、意識的、無意識的に自分を守り踏ん張っている状態といえます。

人が守りに動くとき、その人は行動を取るのではなく、寧ろ身を固くしてその場に留まるのです。行動がないところに結果は生まれません。上司が意図するような成果など実現するわけがありません。ほんの少しの成果の兆しすら見えることはありません。

膠着状態になったとき、もし、上司が部下に対処するための何か別のやり方を知っていたら、その状況を変えることはできるかもしれません。

ところが、多くの上司は別のやり方を知らないどころか、別のやり方すら想像もしません。その代わり、部下に対する圧力を更に強くし、事態を悪化させてしまうのです。


マネジメントとは、座学で学ぶものではありません。マネジメントは、瞬間瞬間に判断を求められるもので、実学です。目の前の人と関わり、目の前の人の行動を変えていく技術、これがマネジメント。

技術なので、ある一定量をこなせば、誰でもそこそこ使いこなせるようになります。ただ、この技術を身につけさえすれば、部下をもつ上司は全く別の未来を創り出すことができるといっても過言ではありません。


さて御社にMさんはいますか?

もし居るとしたら、いつまで、Mさんに、今までと同じやり方を続けさせますか?