代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第121回 私は自分のことだけを考えていました。by M部長

千葉県で年率20%の伸びをこの3年間記録しているM社。創業者であるT社長は起業18年目ですが、8年前に社内の大変革を行いました。

8年前の大改革とは、理念を強く打ち出すこと。経営計画書を作成し理念に基づく行動基準を明確にし、事細かく、仕事の進め方も明確にしました。

これに反発して、古参の社員は辞めていきましたが、その後、理念に共感して入社してきた新卒社員の成長が著しく、一時的に売上げが20%下がったものの、2年で回復し、そこから一貫して5期連続の増収増益です。

ピカピカに見える会社なのですが、そんなT社長の頭痛の種は、幹部社員。社長の唱える理念経営にも、共感をしてくれ、残ってくれて右も左もわからない新卒達に知識や技術の移転をしてくれた功労者達なのですが、、、、

8年前に比べると会社の規模はほぼ2倍となり、組織の階層も増えました。しかし、幹部社員の意識は少人数で自ら現場で働いていた頃とあまり変わっていません。そのため、幹部社員の仕事のやり方、進め方は、小さい規模の会社のまま。今の組織の、今の役職に求められるものに、合っていないというのです。

もっと効率的なやり方があるのに、明確な説明もなく、従前のやり方に固執したり、女性社員も増えているのに、男性ばかりの時と同じ調子軽口を叩いてみたりと、社長の耳にも若い社員からの不満が頻繁に寄せられるようになっていました。

社長も決して何もせずにを拱いていたわけではなく、様々な外部研修に参加させたり、外部講師を招いて研修してみたり、社長自ら直接注意をしてみたりしたようです。

しかし、期待していた改善が見られずに、弊社にご相談にみえたのです。


幹部の方々の面談が始まり、一人の幹部社員が最初のの面談の最後に言った言葉は、「私は今まで社員のことはそっちのけで自分の事ばかり考えていました。」というもの。

このことをT社長に報告した時は、T社長は言葉を失い、背もたれに寄りかかって右手をあごに当てて、しばし沈黙。その幹部の名前を挙げて「あのMがですかぁ」というと大きくため息。

T社長曰く、幹部社員達とは、何度も理念について話し、行動基準に関しても口を酸っぱくして共有を図ってきました。

幹部社員のMさんは、多くの部下をもち、自らが率先して、理念を伝え、行動基準の範を示す立場にあったからです。

行動基準の第一番目には「社員満足度の向上」に関する内容が謳われています。これは、T社長が自らの失敗経験から、最も大切にするべきものは社員であるという強い思いによるものでした。

幹部には、「社員達を大切にするとはどういうことか?」「働きやすい職場作りへの取り組みとは具体的に何をするのか?」こうしたことをテーマ毎に、勉強会も開き、具体的な指示もしてきただけに、ショックを受けたようでした。


理念の実現に向け、行動基準を明確化して経営の基本に据えるとする企業は年を追う毎に増えています。

これはこれで素晴らしいことだと思うのですが、実際にそれが実行されているのか?それが浸透されているのか?というと、「はい、実行されています!「はい、浸透しています!」と答える社長はそれほど多くありません。

T社長のように、経営計画書を策定し、行動基準を明文化しながらも、幹部がそれを実行しないとすると、これは由々しきことです。社内に二重基準が存在することになるからです

お手本となるべき経営幹部が、経営計画書に書かれた行動基準に顧みて逸脱した。行動を取るとは、実際に口にしないまでも、「経営計画書に書かれてることは、あくまでも建前、お前達は俺に言うやり方でやれよ」と言っているのと変わりません。

どれほど理念に共感して入社した社員の数は増えても、やがてしらけていうことは想像に難くありません。早晩、理念に対する熱は薄れ、幹部同様、行動基準に関しても、「あれはあれ、これはこれ」と自分基準の行動し始めるのも自然の流れです。


経営計画書を作ること自体は、浸透させる労力に比べれば、全体の労力の5%未満の話です。しかし、作った以上は、それを徹底しなければ、導入する以前より遙かにヒドイ状況を自ら作り出すようなことになるのです。

でも心配はいりません。この状況打開策はあります。実際に、Mさんのケースでは、第3回目の面談の後に、こんな言葉と述べています。

「知らなかったとはいえ、結局、部下のことは考えてないに等しかったです。(しかしながら)このように明確に部下の役割を設定し、正しいアプローチをすることで、部下の態度が変わりました。これを続けて、行動基準を定着させていきます」と。

Mさんは、今はっきりといいます。「社員の満足度を上げるためには、社員のことを思い、社員が成果を出せるようにサポートすることなしに、実現することはありません。」と。

経営計画書を使って、理念の実現に向け、行動基準を浸透させることは、組織変革のための重要な仕組みだと私は思います。事実、私のご支援先でも、これを使って大成功している企業もあります。

しかし、繰り返しになりますが、経営計画書の策定よりもっと重要なのは、それをしっかり機能させること。そのためには、日々のマネジメントに、行動基準の徹底という要素が含まれなければ、それがなしえることはありません。

経営計画書を配るだけ、毎朝、読み合わせするだけでは、その前にやっていた、額縁に飾られた経営理念の唱和となんら変わることはないからです。小さな額縁が配られたに等しいのです。

実際、経営計画書を作り、それを導入した時、社長は高らかに宣言したはずです。「これこそが、経営の根幹であり、これこそが、会社の基準である」と。

社長がそこまで言って導入したものが、お蔵入りしようものなら、「今度こそ、俺の言うことをきけ!」と何かの仕組みを導入しようとしたところで、その言葉はただむなしく響き渡るだけです。


さて御社はどうでしょうか?

経営計画書に書かれている行動基準は、唯一の基準として、徹底されているでしょうか?
それとも、「それはそれ、これはこれ」が横行されているのでしょうか?

もし、後者の場合、その状況を改善のための具体策はあるでしょうか?