代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第73回 組織の成長は、マニュアルと○○でうまくいく

上場準備を進めるT社。そこのK社長から事業領域を広げるために幹部の成長スピードを加速させたいということでご依頼を頂きました。

売上げの伸びと、利益水準の高さ、端から見ると大成功しているように見えます。ところが、急成長の陰で、これまでこの成長を支えていたビジネスモデルが崩れて始めていました。

ビジネスモデルの機能不全は、2つの点で起こっていました。

このビジネスモデルはある水準以上の人達の入社を前提に組まれていたのですが、急拡大を支えるために、大量入社してきた社員達は、そのレベルに達しない人達。

また、3つの柱の中で、利益率が高い事業の急速な市場変化に対応出来てませんでした。もちろん、社長はこの状況を予見できていなかったわけではありません。役員と共に、対応策は進めていました。

社内で教育システムは準備され、実行に移されていました。また、新規事業の開発も進め、3つの新規事業の中には、将来大きな柱になるだろう有望事業も始まっていました。


ところが、現場で2つの問題が発生しました。一つは、主力事業の事業基盤をさせる人の育成歩留まりが想定より遅く、既存メンバーの負担が増していることでした。もう一つは、急速な市場変化への社内対応が遅れていたことでした。しかし、こちらも、配置転換をするも、経営陣の想定とは違い、思うほど配置転換後のパフォーマンスが伸びなかったのです。

2つの問題は、事象としては異なるように見えますが、根本原因は同じものでした。


ベンチャー企業ではよくあることですが、ある規模までは、短期間で、顧客対応するために、能力知識の向上が問題なく進みます。創業メンバーとそれから数人。業種業態の違いはありますが、10名までは難なく進みます。このタイミングでは、業務フローの整理や、マニュアルの整備なんて、まるでその必要性は感じられません。

次の20-30人となると、これまでと様子が異なります。自分で自ら動くという割合はぐっと減ります。組織が円滑に回らないことが散見されるようになり、その対応策として、この規模から、業務フローを整理して、マニュアルを整備することになります。これなら新人が来ても大丈夫。このマニュアルさえあれば、誰でもできる!と思うわけですが、ここに落とし穴があります。

40人から50人規模になると、組織は次のステージに入ります。組織の階層が増え、これまで通りの意思疎通、情報伝達ができなくなる。また、手作業で対応出来たことができなくなります。社内分業が進み、部門内、部門間をまたいで、これまでと大きく業務フローが変わります。組織規模の拡大は、それ自体が新たな課題を生み出します。単なるマニュアルの改訂では対応不能になるのです。一端ゼロベースで仕組みの再構築が必要です。

この段階で新卒の採用も始めている場合は、ビジネスモデルの完成度は極めて高いといえます。まさに、言葉通り、様々な仕組みを元に、大きく規模の拡大できる条件がそろうわけです。


この会社の状況に話を戻します。

40人規模の拡大に合わせ、現場で進んだことは、決められた手順の徹底でした。誰もが出来る仕組みを落とし込むことになったのです。ところがもう一つの変数がありました。顧客種別の広がりです。

これまでは、ほぼ似たような顧客に同じような方式で対応したところで、12通りほどの対応手法をマスターしておけば、ほぼ誰でも同じように対応が可能だったのです。ところが、顧客種別の広がりのため、対応方法の種類も一気に増えました。画一的な手法では対応できないケースが増えていたのです。必要とされる知識量がかけ算で増えていきました。

経営陣からしてみると、「そんなのちょっと考えればわかるじゃないか」でしたし、現場のリーダーからは、「これ以上マニュアルなんて必要ない」という声もありました。

この問題の背景にある真の課題は別にあると私は考えました。「考える」を極力排除してきた結果、「ちょっと考える」ことが実施されず、クレームが次から次へと発生ししていたのです。

社長以下、最初は頭を抱えていたのですが、それでも、対応できるようにと、結局、更に詳細のマニュアルが整備されました。まさに、それでも「考えなくていい」丸暗記式の究極マニュアルです。


解決するかに見えた問題は、なかなか解消できませんでした。そこで起こったことは、携帯電話の窓口の店員さん現象です。

数ヶ月毎に、新しいスマホが出る、新しいサービス体系がでる。そのたびに、新しいマニュアルが配布されるわけですが、窓口担当者の頭の中に、その知識が十分に入らない。

窓口に訪れるお客様の疑問に丁寧に対応はしてくれるのですが、どうも噛み合わない。顧客から質問がでると、「少々お待ちください」と先輩に確認に離席したり、電話で確認したりで、
対応時間がドンドン長くなる。

そうなると、顧客の顔には明らかに不満の表情やイライラが浮かびます。窓口担当者は、おろおろするばかり。そのうち、顧客のイライラ顔に耐えられず、その場しのぎの対応をして、後から重度のクレームとなり、またその対応に右往左往する。。。

これが携帯電話の窓口で起こっていることです。


変化のスピードは速くなっても、遅くなることはありません。マニュアルの改訂、が追いつかなくなることは必定です。

もちろん、マニュアルは不要になることはありません。最低限理解しなければ成らない知識もまた減ることはなく、増えていくわけですから。

今回取り上げた、T社のように、成長スピードが速い会社の場合は、マニュアル整備で対応完了することはありません。マニュアルで知識水準、作業手順の効率化を図ることはもちろんですが、それだけでは、不十分です。変化のスピードに対応するために、考える力=思考筋 を鍛えることが必要だと、私は考えています。


変化対応力が長けている組織にはこの思考筋が発達しています。

CS対応に長けている組織を見回してください。彼らはマニュアルだけで動いていません。マニュアル+思考筋で動いています。

この思考筋、鍛えるのはほんのちょっとの手間でできるですが、多くの企業では、この思考筋を鍛える環境がありません。T社のように顧客接点のある企業で、この思考筋を鍛える仕組みがないのは、致命的だと考えます。

自ら考え、提案する社員が欲しいという経営者が大いのに、最初の一歩である考える、思考筋を鍛える環境を創れないのはなぜなのでしょうか?多くの組織を見てきて思うのは、スリムな体が欲しいと願うだけではダメで、能動的に体を鍛えが如く、意図をもってこの環境を創らない限り、社員が「考える」環境は出来上がらないということです。

更に重要なことは、思考筋を鍛えない組織は、その変わりに何をするかというと、思考筋の筋肉細胞を壊し、思考停止させることを繰り返しています。


T社の話に戻ります。T社でも、思考筋の筋肉細胞を壊す行為が行われていました。

思考筋の筋肉細胞の破壊は、簡単です。社員が出したアイディアを、片っ端から踏みつぶしていけばいいのです。例えば、

「そんなの無理だよ。」
「それは意味がない」
「そんなのダメだよ」
「そうじゃないよ」
「違うなぁ、それ」
・・・

社員が折角、思考筋を使い、生み出したアイディアは、上司によってバッサバッサとなぎ倒されていきます。

社員がこれを一度経験すると、アイディアを出す意欲が奪われます。


一方、思考筋を鍛えるリーダーは、凄腕のパーソナルトレーナー顔負けの声かけ上手です。

「よっしゃ、それやってみよう!」
「いいねぇ、それ!」
「確かに、それもあるよね!」
「おお、それも良さそうだ!」

そうして、社員のアイディアを広げ、実現に向けての後押しをします。こうして、社員の思考筋が鍛えられていくのです。思考筋トレーニングを開始した当初は、何を聞かれても、だんまり状態の社員も、数ヶ月すると、アイディアが口をついてでてくるようになります。

この話をすると、「いやぁ、うちの社員には無理だよ」とおっしゃる方々がいますが、バタフライなんて、俺には無理だと言っているようなものです。順序立てたトレーニングをするスイミングクラブに入れば、誰もが数ヶ月でバタフライができるようになります。

「そんなの無理だよ」という言葉は、トレーニング方法の実在を知らないという無知が創り出した勘違いに過ぎません。

時々、育成上手のリーダーに出会いますが、共通するのは、この思考筋を鍛える技術を持ち合わせていることです。

地域でNO1、
エリアでNO1、
都道府県でNO1、
業界でNO1、
を目指すなら、

社員の思考筋を鍛えるのが当たり前の環境を創ださなければなりません。

NO1で有り続ける、それは、誰よりも先に変わり続けることでもあるからです。それは、まさに、組織に所属する個々が、どれほど考えてやるか、そこにかかっています。


さて、御社では如何でしょうか?

御社のリーダーは、社員が出てきたアイディアを実現させるための技術を持っていますか?

それとも、片っ端から踏みつけていますか?