コラム「組織の成長加速法」-第249回 採用でも研修でもなかった。新卒離職が止まらない会社の共通点

以前、ある売上30億円規模のBtoBサービス企業の社長から、ご相談をいただきました。
社員数はおよそ60名。競合と比較しても新卒採用は順調で、毎年2桁に近い新卒社員が入社している会社です。
ところが、社長の表情は決して明るくありませんでした。
理由は、離職率の高さです。
「毎年、手は打っているんです」
「採用も、研修も、改善してきました」
「それでも、なかなか良くならないんですよね」
気がつけば、新卒採用を始めて10年。
改善の努力を続けてきたにも関わらず、大きな変化が見えない。
社長の言葉の端々からは、「これ以上、何をすればいいのか分からない」という戸惑いが感じられました。
採用と研修は、実は“十分すぎるほど”整っていた
詳しくお話を伺っていくと、意外な事実が見えてきました。
採用手法の見直し、入社後半年間の研修内容、どれを取っても、非常によく設計されていたのです。
正直に言えば、
「ここまでやっている会社は、そう多くない」
そう感じるレベルでした。
つまり、
採用が悪いわけでも、研修が足りないわけでもない。
では、なぜ離職が止まらないのか。
答えは、研修が終わった“その先”にありました。
目の前の業務に飲み込まれる現場
新卒育成というと、多くの会社が
「研修をどれだけ充実させるか」
に意識を向けます。
しかし、実際には、新卒が一番悩み、つまずくのは、現場に配属された後です。
研修という守られた環境から、成果を求められる現場に出た瞬間、育成の難易度は一気に跳ね上がります。
この会社でも、まさにその部分が手薄になっていました。
研修から現場に渡った瞬間、誰が、何を、どこまで担うのかが曖昧だったのです。
もう一つ問題もありました。
離職が多かったため、自分が若手に引き継いだ案件が、ブーメランのように自分にもどってきて、疲弊していたのも一因だったのです
現場に問題があったのか?答えはNO
ここで、はっきりさせておきたいことがあります。
この会社の現場は、決して怠けていたわけではありません。
むしろ、本当に一生懸命やっていました。
若手を何とか育てようと、時間を割こうとする人もいました。
忙しい業務の合間を縫って、声をかけようとする人もいました。
ただし、全員に共通していたのは、
「何が正解なのか分からない」
「どこまでやればいいのか分からない」
という状態だったことです。
決まっていなかったのではない。伝えられていなかった
重要なのは、
育成の方針や考え方が、まったく存在しなかったわけではない、という点です。
社長の頭の中には、方向性がありました。
経営陣の中でも、ある程度の共通認識はありました。
しかし、それが
現場に、直近の言葉として、繰り返し伝えられていなかった。
理由は、非常にシンプルです。
「忙しかった」からです。
忙しさが、静かに判断軸を奪っていく
誰も悪気はありません。
「今は忙しいから、後にしよう」
「落ち着いたら、ちゃんとやろう」
こうした判断は、すべて善意です。
ところが、この善意が積み重なると、組織にはある変化が起きます。
“忙しいかどうか”が、最優先の判断軸になってしまう。
・伝えるべきことより、目の前の業務
・育成より、今月の数字
・確認より、スピード
こうして、少しずつ、本来優先すべきものが後ろに追いやられていきます。
優しさと厳しさが、同時に暴走していた
この会社の育成現場では、二つの極端な状態が見られました。
一つは、
「できるだけ負荷をかけない」
「苦しい思いをさせない」
という、優しさを基準にした育成。
もう一つは、
自分が厳しく育てられてきた経験をそのまま再現する、厳しい育成。
「盗んで覚えろ!」とまではっきり線引きはないのですが、「昔はこんなことなかった」という言葉が頻繁に出てきました。基準は自分が教わったやり方で、それ以外は悪でした。
若い指導担当とベテラン指導担当の間で顕著だったやり方の違いがありました。
ただ、どちらも結果にはつながっていませんでした。
なぜなら、どちらも“向かう先”が共有されていなかったからです。
ゴールが見えない中での優しさは、甘やかしになります。
ゴールが見えない中での厳しさは、理不尽になります。
問題の正体は、リーダーの能力ではない
ここで、多くの社長が誤解しがちな点があります。
「リーダーの力量不足ではないか」
「もっとできる人を置くべきではないか」
しかし、この会社で起きていた問題は、そこではありませんでした。
リーダーの能力が、急激に落ちたわけでもない。
スキルが足りなかったわけでもない。
問題は、
マネジメントの優先順位が、忙しさに負けていたことです。
変えたのは、優先順位と“決まりごと”
そこで行ったのは、非常にシンプルなことでした。
・リーダーは何を最優先する人なのか
・忙しくても、必ずやることは何か
・自分の仕事より、先に見るべきものは何か
これを、決まりごととして明確にし、徹底したのです。
新しい能力を身につけさせたわけではありません。
ただ、「何を優先する人なのか」を、はっきりさせただけです。
離職率は、リーダーが変わらなくても改善した
結果は、非常に分かりやすいものでした。
リーダー個人の能力が劇的に変わったわけではないのに、
離職率は、目に見えて改善していきました。
理由は明確です。
忙しさよりも上位に、判断基準が置かれたからです。
人は、迷わなくなると、行動できます。
ルールは、人を縛るためではなく、迷わせないためにあるのです。
今では、
組織の中枢に、当時の若い社員が、続々と参加して、中堅社員が加わり
平均年齢が年々下がっています。
実は、クレーム問題も同じ構造だった
この会社では、顧客からのクレームも発生していました。
その内容を詳しく見ていくと、社内の問題と驚くほど似ていました。
「忙しくて、後回しにした」
「手が回らなかった」
つまり、
忙しさを理由にやらない構造が、社内だけでなく、社外にも表れていたのです。
社内の判断軸は、必ず外ににじみ出ます。
ここを放置すると、問題は必ず拡大します。
まとめ:忙しさを基準にしない経営へ
どの会社も忙しい。
誰も悪気があってやっているわけではありません。
しかし、
忙しさが最優先の判断軸になった瞬間、組織は確実に歪み始めます。
育成が止まり、
マネジメントが形骸化し、
やがて顧客対応にも影響が出る。
さて、御社ではどうでしょうか。
・忙しさを理由に、伝えることが後回しになっていないか
・忙しさを理由に、育成が止まっていないか
・忙しさを理由に、判断がブレていないか
ぜひ一度、点検してみてください。
組織の基準を少し変えるだけですが、とてつもない変化を生みだします!