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代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第97回 半年間でトップレベルに顧客満足を引き上げる方法

ある企業で、CSが高い店舗として、全国トップランキングに見事入賞した店舗のS店長と話す機会がありました。

そのS店長とお会いした時のことを今でも覚えています。夏だというのに、いつもマスクをして面談にいらっしゃるのです。今から考えれば、ストレスがひどくて免疫力が低下していたのでしょう。

S店長と初めて話した時に、とても論理的な思考をされる方だというのがすぐにわかりました。細かな分析結果を元にお話くださるのです。S店長は、別の業界からの転職組でした。以前の会社でもCSの高い組織作りに成功していました。ところが、自身の中では、CSを高めて、売上げを上げるための方法論は確立しているはずでしたが、どういうわけか、今の店舗のCSレベルは低迷した状態のままでした。

お会いした当時、S店長が繰り返し言っていたことがあります。それは、「部下にも何度も同じことを伝えているのものの、それがなかなか実践されない」というもの。

以前の会社で上手くいったやり方をそのまま実践しているのに、効果が上がらない原因は、部下の能力が低すぎること」と考えているようでした。

問題の所在が自分以外にあると決めてしまうと、その人は問題解決をすることが不可能になりますから、S店長は見事にこの罠にはまってしまっていました。


そこで、問題への取り組み姿勢の改善もやりながら、以前の事例と現店舗との違いの抽出も進めることにしました。結論から言うと、前の職場と今回の職場の大きな違いは、顧客接点にありました。

前の会社では、顧客接点は、極めて限定されていました。例えば、顧客接点は、商品の注文を取り、商品を引き渡すまでの、数分間。接点の場所はいつも同じで、ほとんどがレジの前。接点の時間は、どんなに長くても5分でした。

扱っている商品は、細かなものを合わせても、40品目。売り切り、返品なし。まさにアルバイトの店員でも、マニュアル丸暗記で、2週間いれば一通りの事ができてしまうほどシンプルでした。

元々、CSの引き上げのための、改善点、改善場所は、それほど多くなかったのです。


一方で、現在の店舗では、扱い点数こそ20点でしたが、顧客接点のタイミングは、来店もあれば、突然の電話もある。それぞれの接点の時間も短いものから2時間以上の長いものまであります。商談の機会も、長ければ数ヶ月。販売後も接点が続きます。長ければ営業マンが退職するまで数十年のお付き合い。

顧客接点の量も質も、前職のものとは比べものにならないくらい多く、複雑で高度なものを要求されるのです。前職の場合は、極論、丸暗記でも対応可能なレベルだったのですが、現在の店舗ではアニュアルの暗記では全く歯が立たないのです。

実際のところ、マニュアルは2つありましたが、丸暗記用ではありませんでした。ひとつは、様々な顧客からの問い合わせ時に抜けもれなく書類を作成するための手順を記した事務フローのマニュアル。もう一つは、接客マニュアルで、それは最低限の質を担保するための基本動作が書かれていました。初心者の対応レベル引き上げのためには効果を発揮しましたが、顧客満足度が高い店舗では役に立っていませんでした。


商品の購入後に、お客様から連絡がくる場合、その9割は基本のニーズが満たされていないから発生する相談で、残りの1割は商品、サービスに対するクレームでした。どちらの場合でも、お客様はお困り事が明確にあって来店もしくは、電話してくるため、初期対応でしくじると、すぐにお客様は強烈な不満を感じてしまいます。

初期対応がCS向上の要であることは明白でした。そこで、初期対応の改善を考えたのです。初期対応改善のカギは大きく2つありました。1つめ目のカギは、事務職、営業職と技術職との情報連携です。適切に情報を伝えないとお客様は同じことを2度も、3度も窓口担当が交代する度に伝えることになります。もしそうなれば、大きな減点を食らうことになります。

もう一つのカギは、顧客の期待値のコントロールでした。顧客は困っている状態で連絡してくるため、特に問題解決までの時間の要求が高くなります。この高い要求を初期対応でコントロールできないと、自ら更に顧客の不満、怒りに油を注ぐことになるのです。


CSの様々なアンケート結果からも、この初期対応の部分の改善がもっともインパクトがあることがわかっていました。そこで、S店長と一緒に改善点を話し合いました。

その結果、「当初から自ら考え判断できる力」をつけるところに注力することにしました。

一見すると回り道ですが、S店長も従来のやり方が効果的であれば、とっくにCSレベルは改善していてしかるべき時間が経過していました。まったく改善の兆しが見えないことに関して、S店長は口には出さないまでも、お手上げ状態だったので、S店長もこの方針には賛成してくれました。やったことを一言で言うと、S店長が話すことを止めること、でした。


それまでは、1から100まで、会議の場でも、個別の面談の場でも、S店長が一方的に話していたのです。前職では顧客接点がシンプルだったのでのやり方が有効だったのです。ところが、現在の商品、サービスを提供する顧客対応の質と量で、暗記レベルをはるかに超えていました。

店舗のスタッフ一人一人が自ら刻々とかわる店舗の状況に鑑みて、自ら考え、判断できる「考える力」なしにCSの向上はありえなかったのです。

最初の変化は、会議のやり方でした。それまでのレクチャー形式を改めて、会議の場を「考える力を鍛える場」に変えました。とはいえ、当初の3ヶ月は、S店長と店のスタッフとの我慢比べ。途中S店長が、会議が終わる度に、不安になって何度も私に電話をかけてきました。それでも、やはり3ヶ月はとにかく我慢です。「考える力を鍛える場」を作ることに集中してやり通しました。

すると、4ヶ月目に大きな変化が現れました。堰を切ったように、スタッフ同士で発言が飛び交うようになりました。まるで「あーうー」しか発しなかった乳児がある時から急速に言葉を話し始めるような変化でした。これは、あるやり方を使うことで、どの業態で行っても同じように起こります。


会議の開き方で、大切な点は、「誰かに任せればいいや」とか「誰かがやってくれる」という依存心をすべての店舗スタッフ全員の頭の中からとっぱらうことでした。これができてくると、店員それぞれが、自ら考え、発言することができるようになっていきます。

会議の場が変わってくると、今度は改善を継続するための仕上げの段階です。S店長に店舗メンバーとの関わりの仕方を変えてもらいました。それをすることで、現場のリーダー格となる社員の「考える力」を一気に引き上げに成功しました。

これによって、リーダー格のスタッフが核となり、更なる改善が毎月チーム毎に話し合われ、改善行動が行われるようになっていきました。

お客様満足度は一度高くなっても気が抜けません。お客様は高いサービス基準にすぐに慣れてしまうからです。基準を更に引き上げるために継続的な改善行動が必要不可欠なのです。

かくして、初期対応の際に「最良のサービスを提供するためには誰に何を伝えればいいのか?」を店舗全員が常に考えることが当たり前になります。CSを単なる作業ととらえている店舗のスタッフが見学にくると、あまりの違いにショックを受けることもあるようです。たった半年で、それだけの違いが生まれたのです。


冒頭でお伝えした通り、全国大会でトップテン入りし、数々の賞を受賞後にお会いする機会があったので、何が短期間の成功の要因だったかをS店長に尋ねてみました。

そのS店長曰く「とにかく部下に考えてもらうようにすることだ」とのこと。

お客様というのは千差万別、マニュアルは最低限の質を担保するためのルールブックにすぎないので、マニュアルではなく、自分の判断を信じ、即座に対応することを店舗全員い徹底してもらうこと。

そのためには、どういう対応をしたらいいか「考える力」が必須で、これを日頃から養う機会をもうけたことが成功の要因だったと振り返ってもらいました。


「考えろ!」「考えろ!」と連呼したところで、全社員が考えるようにはなりません。どの組織にも5%くらいは「考える筋力」がある社員がいます。その他大勢の社員は考えることを放棄し、目の前の作業をすることだけに集中し続けます。そうすると、「考える筋力」は萎えて、割り箸一本持ち上げられないほど弱り切ってしまうのです。

「考える筋力」を増強することなしに、組織が本来の持てる力を発揮して、組織全体で成果を上げることはできません。また「考える筋力」をつけることは、社員自らが努力をもって成し遂げることという正論を振りかざしても、「考える筋力」は増えません。「考える筋力」は社員任せにしては実現している会社に出会ったことはありません。

日々のマネジメントの中で、この「考える筋力」トレーニングを行うことで、臨機応変に対応する考える力のベースができあがるのです。


さて、御社の場合はどうでしょうか?

社員が自ら判断し行動するための、「考える筋力」を増強させるマネジメントは実践されているのでしょうか?