代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第81回 「お手軽な仕組みの導入」というカンフル剤で組織は強くならない

先日弊社にご相談にみえた、グループ売上40億のサービス業を率いるN社長、一気にステージを上げたいので一緒に考えて欲しいとのご要望でした。日を改めて、海が見える見晴らしの良いホテルのラウンジでランチをご一緒した後、場所を移してご面談しました。初めの一時間で浮かび上がった課題を整理し、取り組むべき優先順位を確認していた時のことです。


創業15年。最初の10年は、一気に売上げを加速させ、新しい市場の立ち上がりの追い風もあり、一気に売上げが60億円を超えるまでになりました。目まぐるしく変わる市場の変化に対応するため、事業の領域の再定義などをして売上げが半減するという厳しい状況も経験されました。

急拡大の際の混乱の反省から、ある制度の導入の重要性を思い知ったというN社長は、再起をかけて、様々な仕組みの導入を試みるようになりました。中心となる事業会社への導入を試みているのですが、どうも上手くいかないのだとのことでした。既に2回ほど外部の専門家に依頼して仕組みを導入したけどうまくいかなかったのです。


N社長曰く「ビジネスモデルを創るのは得意だが、組織運営に関しては、自分は不得意なので
自分一人では解決できないと思っている、だから外部に依頼する」ということでした。N社長のこの言葉、大変共感する部分も多かったのですが、その一方で、今回新たに外部に依頼しようとするこの制度に関して、上手くいくための条件を尋ねてみると、曖昧な返事ばかりでした。

「3回目の導入が3度目の正直となるように、成功する条件を考えてみましょう」と提案すると、N社長も是非にとおっしゃるというので、その条件を一緒に考えることになりました。


その話をしていく中で、明らかになったことがありました。N社長は、新たに導入しようとするその仕組みが、課題を解決になるかどうか、根拠が不明確なことが分かりました。

一緒に振り返ってみると、1回目、2回目の導入時も同じで、今回も「なんとなくよさそう」という感覚値での導入決定でした。N社長曰く「実際のところ受けてみなければ分からないから、取りあえずやってみる」ということでした。

一般論として、仕組みというのは、目に見えないサービスと同じです。ですから、やってみなければ分からないというのは、半分正しいのです。事実、私も、会社のステージや状況によっては、「取りあえず導入しましょうよ」といって経営者の背中をおすことも多くあります。


ところが、N社長の会社の状況は、度重なるリストラを実行して、組織の混乱がまだ収束してはいない状態にありました。そして、過去の導入時の話を聞けば聞くほど、今導入すれば、組織が大きく疲弊する可能性が極めて高いと感じました。

一度半減した売上げがなかなか伸びず特にこの数年停滞している状態も、会社に対する社員の信頼が大きく揺らいでいることも原因であることも容易に難くなかったのです。

N社長に率直に私の感想をお伝えすると、「それはよく分かるものの、組織の状態をよくするためには、この仕組みは必要だと思う」とのこと。N社長の意思確認はできたので、是が非にで今回の導入を成功させるために、前回、前々回の導入失敗の原因を探り解決策を考えてみることにしました。

するとまた意外なことが分かっていました。前回、前々回の仕組みの導入について話を聞いていくと、その仕組みとは別にこの数年の間に導入しようとした表彰制度や、階級制度、チームビルディングの試み等々が次々と出てきたのでした。


組織を少しでもよくしたい。社員に仕事の楽しさを味合わせたい。楽しく働いてもらいたい。
創業社長の切なる願いが、「何か自社の状況を改善できるものはないか?」を懸命に探し続ける原動力となっています。

素晴らしいことでもあるのですが、ついつい口車にのって安直な手法に手を出してしまう事例が多いのも事実です。社長だって人間ですから、その気持ちは良く分かります。しかし、何か一つお手軽な仕組みを導入すれば、特段の努力なしに理想の状態がやってくるなんていうのはありえません。

すぐに手に入るものがあるとしたら、それはドリンク剤と一緒で、一時的なカンフル剤の効果しか望めません。一時的なカンフル剤が全てダメなわけではもちろんありませんが、「カンフル剤どんだけ飲んでるんですか?」というバランスの悪い組織も少なくないのです。


これまでにも、何度もお伝えしているように、世の中には沢山の良い仕組みがあります。ところが、どこかの会社ではものすごく成果を上げた仕組みが、自社に導入すると、途端に成果の出ない仕組みに変身してしまうのです。

何が問題なのかと突き詰めていくと、仕組みの問題ではないのです。仕組みを運用する技術がないことに帰結していきます。

・目の前の社員に成果を上げさせることの出来ない経営幹部、
・目の前の社員の成長を支援できない経営幹部、
・目の前の社員に挑戦させられない経営幹部

このように経営幹部が、目の前の社員を動かせる術を持たない組織で、どんなによい仕組みを入れたところで、猫に小判となってしまいます。

バラ色の成果事例に引かれ、仕組みを次々と導入して、コレもだめ、アレもだめ、はそろそろ終わりにして、どのような仕組みを入れても、導入がスムーズにいく組織作りを地に足着けてしっかりと行うべきなのです。


さて、御社は如何でしょうか?

御社の幹部は如何なる仕組みであってもすぐさま導入し、触れ込み通りの成果を上げられていますか?それとも、他社では上手くいく仕組みを導入しても、自社ではなぜか失敗して、ブツブツ仕組みの文句を言っているのでしょうか?