代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第232回 “おもてなし”を 重視している! なのに 改善が進まない 会社の共通点

「おもてなしこそがサービス業の肝です」と語る社長の違和感

先日、ご支援先の社長からのご紹介で、ある飲食チェーンの社長とお会いする機会がありました。

業界では珍しいほどの苦労人で、その半生はまさにドラマチック。私も引き込まれるように耳を傾けていました。

そんな中、「今、最も力を入れていることは何ですか?」とお聞きすると、

「木村先生、やはり私たちはサービス業ですから、“おもてなし”がすべてだと思っています」

と、真剣な表情で答えられました。

私はその言葉に強く共感しつつも、同時にひとつの“違和感”を覚えました。

これまで支援してきた数多くの企業でも、「おもてなし」を掲げてはいるが、浸透していない──そんなケースをいくつも見てきたからです。


理念はある。でも現場には「感じない」現実

実際、「おもてなし」を経営理念や行動指針に掲げている企業は非常に多くあります。

壁には額縁に入った立派な言葉が飾られ、パンフレットにも美辞麗句が並びます。

しかし、実際に店舗を訪れてみると──

・目が合わない店員

・名札を見ても名乗らない受付

・忙しさに追われて気遣いが消えているスタッフ

そんな現場に、私は幾度となく出くわしてきました。

「おもてなし」とは名ばかり。理念と実態の間に、深い溝があるのです。


「心で感じるものだから、教えられない」は本当か?

よく聞くのが、「おもてなしは心の問題だから教えるのが難しい」という言葉です。

一見もっともらしく聞こえます。確かに「おもてなし」の語源には、“相手を思いやる心”“相手主体”といった精神的な側面があります。

また、茶道を起源とする考え方も有名です。季節に応じた設え、相手に心を尽くす作法…

そう聞くと、一気にハードルが高くなりますよね。

ですが、ここで立ち止まって考えていただきたいのです。

茶道における「おもてなし」は、心だけではなく「所作」や「形式」にも重きを置いているという点です。


「伝わっていないおもてなし」は、無礼とすら受け取られる

おもてなしは「相手主体」だからこそ、“相手に伝わって初めて成立する”ものです。

いくら崇高な気持ちで微笑んでいても、それが相手に伝わらなければ意味がない。

むしろ、何も言わずに立ち尽くしていれば、無礼だと感じられてしまうこともあります。

つまり、おもてなしは「伝える技術」であり、訓練可能な技術」なのです。

「気持ちでやれ」と言われてできる人は一部だけ。

それ以外の多くの社員には、「行動として教える」ことが必要なのです。


成果を出している企業は、ここが違う

実際に、おもてなしの質を劇的に改善した企業もあります。

全国コンテストでいきなり上位にランクインする支店が複数現れた例もありました。

これらの企業にはある共通点がありました。

それは、「おもてなし」を抽象的な理念で終わらせず、行動レベルまで分解・定義・訓練していたという点です。

たとえば、次のようなチェック項目を定めて、繰り返しトレーニングしていました。

  • □ 笑顔でアイコンタクトをしながら「いらっしゃいませ」と言えたか

  • □ 予約のお客様には名前を添えてお迎えできたか

  • □ 案内時に歩くスピードをお客様に合わせたか

  • □ 椅子を引く、荷物を預かるなどの自然な所作ができたか

  • □ 着席後に快適さへの配慮(温度、音、照明)を示す声かけをしたか

これらはすべて、“おもてなし”という抽象概念を「行動化」した例です。


浸透しない企業は「やれ!」だけで終わっている

一方で、いつまでたっても改善しない企業には明確な共通点があります。

それは、「おもてなしをやれ!」という号令だけで、仕組みも訓練もないこと。

そもそも、「おもてなしって何?」という共通認識すら曖昧なままでは、現場は動きようがありません。

「心を込めてやれ」とだけ言われても、社員にとってはまるで抽象画を描けと言われているようなものです。

「知っているけど、やれていない」状態は、現場では“知らない”と同じ。

【参考:やるべきことはわかっている。でもやれていない現象の正体】でも触れた通り、

これはマネジメントが形骸化している典型です。


「所作」の訓練なくして、おもてなしは根付かない

おもてなしを行動レベルまで落とし込み、「見える化」して共有することが、浸透の第一歩です。

何をすれば良いかが具体的であればあるほど、教育も、評価も、改善も可能になります。

逆に、抽象的な理念のまま放置すればするほど、

・やっているつもりの社員

・分かっているけど動かない幹部

・失望するお客様

という「三重苦」を抱えることになります。

理念を“額縁の中の飾り”で終わらせず、所作と訓練で現場に落とし込む。

それこそが、本当の意味での「おもてなしのマネジメント」ではないでしょうか?


まとめ:「おもてなし」を浸透させるには、“精神論”より“行動の再現性”

おもてなしを掲げているのに、いつまでたってもクレームが減らない。

理念はあるのに、現場にはその気配すら感じられない。

──もしそうであれば、マネジメントの再設計が必要です。

おもてなしは精神論ではありません。

それは「相手に伝わる所作と、その再現性の管理」です。

御社では、「おもてなし」の定義を具体的な行動に落とし込んでいますか?

「やれ!」だけでなく、「こうやってやるんだ」を示せていますか?

ぜひ一度、現場を見てみてください。

その理念、社員の行動に現れていますか?