代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第131回 悪いのは辞めていった奴ら、ですよ!それと、、

今から3年前のこと、関西地方で、40億規模の事業を営む社長がご相談に見えました。ご相談の内容は、半年前に、30名の技術者の内、9名が辞めたことで、不安を抱えているとのことでした。

社長に詳しく内容をお伺いすると、ある4-5年前に、一気に売上げが拡大する時期があり、会社のスピードが急加速した時期があったそうです。

受注をこなすために、技術者の採用をそれまでの3倍規模に増やすようになりました。創業以来、二人三脚でやってきた技術部門のトップM氏と意思疎通に違和感を感じるようになったのも、その頃だとのことでした。

その時、社長は一抹の不安を感じたそうです。この技術部門のトップM氏が、もし会社を去ることがあったら、大変なことになると。


そこで、社長はM取締役に対して、技術部門全体を1人で管轄するのではなく、右腕となる人を採用して、部門の仕事を徐々に任せていくことを提案しました。

関係が既にギクシャクした時期でしたので、Mさんは、諸手を挙げて賛成という姿勢ではなかったそうです。一方、自分一人に権限が集中している状態にリスクが潜むことは、Mさん自身も分かっていました。

一方、Mさんはそうした右腕、左腕は、社内の人材を引き上げることで実現するべきだと考えていました。そのことを社長に伝え、完全に部門を任せるまでには、どんなに早くても、5年かかると考えて欲しいと伝えました。

すると、当時の社長は、あまりに時間がかかりすぎると、社内での引き上げの案に反対をし、ヘッドハンティングに取りかかったのです。

当時、Mさんの右腕に求められる資質は、Mさん並の高い技術力を持っている人というよりは、マネジメント的な要素を持っている人と社長は考えました。

少々給与が高額であることには目をつぶって大企業の製造管理部門の責任者も経験したことのある50代のY氏を採用したそうです。

ところが、M氏とY氏の相性がよくありませんでした。もともとYさんが採用候補になった時、Mさんは、Yさんの採用に反対したそうです。

なんでも、Yさんと面談した結果、Mさんの考え方とはあまりに異質であると感じたとのことでした。しかし、社長がMさんの意見を押し切る形で採用になったのです。

Yさんは、実直な人でしたが、自分の大企業経験を拠り所にして、会社のやり方に批判的な発言をすることが日を追う事に増えていきました。Mさんにしてみれば、全てが自分に対する批判と受け取り、Yさんとの関係は急速に悪化していったのです。

Mさん、Yさんの軋轢は、社内全員の知るところになりました。会議の席でも、お互いに目を合わせるいことがなく、互いに一方的に意見をぶつけるだけ。組織上は、Mさんが上席のため、技術部門の会議では、一応、Mさんが言ったことが方針ということにはなるものの、会議室をでると、Yさんは、Mさん批判を口にしてMさんの決定を翻すことも珍しくなくなっていったそうです。


時を同じくして、Yさんは、機会があると社長にMさんに関する文句をつけるようになりましたMさんのことを長くよく知っている社長は、Yさんの言っていることにいくつか真実もあるものの、Mさんに対する嫉妬だと感じていました。
社長は意に介していませんでしが、Yさんに対しては、「よくぞ会社のために指摘してくれた」と感謝のそぶりをみせていたようです。

また社長は、Yさんに対して、やがて新規事業部門が立ち上がる時には、Yさんの部門を独立させる構想があること、を伝えていました。
社長としては、Yさんの注意の矛先をMさんにではなく、仕事に向けて欲しいという思いがあってのことでした。

社長からの構想を聞かされたYさんは、より声高にMさん批判を強めていったそうです。


そうこうしている内に、ある年の年末に、Yさんの部下9名が一斉に退職届けを提出してきました。

Mさんと社長は懸命に慰留したものの、辞める意志は固く、ほぼ同時に辞めてしまったのです。全員が退職理由として口にしたのは、Yさんに対する強い不信感でした。

退職する人数の多さに驚いた社長は、詳しく退職原因を知る必要があると考えました。知り合いの社労士に退職者と面談してもらいました。手続きを円滑に進めるためと称して面談の場をつくり、本当の退職原因を探ろうとしました。

半数がこの面談に応じて、社労士に語ったことには、直接的な理由はYさんに対する嫌悪感でした。ところが、間接的な理由も大きなウェイトを占めていました。
間接的な不満の理由は、Yさんを厚遇する社長や、Yさんのような人が好き放題する状況を看過する会社にも嫌気がさしてのことだったのです。


退職した社員達の大半は、Mさんが直接、指導してきた部下達も含まれていました。Mさんは、大変心を痛め、Mさん自身も自分の進退伺いを社長に相談してきたそうです。

その時、Mさんは、Yさんとの確執によって、部下に迷惑をかけたことを深く反省していました。そして、すぐさま、組織立て直しの善後策を社長に提出してきたそうです。

一方Yさんは、社長にこういったそうです。「Mさん子飼いの部下達は、物事の道理がわからず、表向きの返事はよいものの行動がついてこない馬鹿者達だった。悪いのは辞めた奴らと、Mさんだと。」

それを聞いて社長は、Yさんの更迭を決断したそうです。社長はYさんに、辞める2人の課長の仕事内容を引継ぎ、1年間現場の製造管理の責任者になって欲しいと頼みました。円滑を仕事をすすめるために、Mさんの指示には必ず従って欲しいと伝えたのです。

すると案の定、Yさんからは、体力的なことを理由に、退職届けがでてきたそうです。こうして、当初の社長のもくろみは全てはずれたばかりではなく、一時的に受注を控えねばならない状況に陥ったのでした。


この話には後日談があります。Mさん自身が部下育成をする技術を持ち合わせず、それ故に、部下が育っていなかったという事実は代わらずにあったのです。

そこで、Mさんには、任せられる部下作りの技術を会得してもらいました。その結果、1年後には、4つの製造課の課長は、Mさんがいなくても、日常的な課題対処ができるまでになりました。

社長は5年かかると言われた育成が、半分以下の時間に短縮されたことを大変喜んでいました。同時に、ゴタゴタを振り返って、大企業でマネジメント部門にいたはずのYさんは、全くマネジメントの力は備わってなく、ただ、状況を悪化させただけだったと総括したのでした。

そして、社長ご自身の誤った状況判断が、組織の混乱をうんだことを大変反省していました。

実はこの会社、組織が大きくなっては、縮小し、また大きくなっては縮小するということを、今回ご紹介する事例の前から、大なり小なり繰り返してきていたのです。

社長曰く、これを繰り返してきたのは、社長が根本原因を見誤り、表面的な対処に、社長が注意を向けてしまった結果、同じような失敗を繰り返したと。


さて御社の場合は如何でしょうか?

組織が直面する課題の本当の問題は何か、掴んでいるでいるでしょうか?少し勇気はいるかもしれませんが、その問題に直面する覚悟を持って取り組んでいるでしょうか?

もし、まだ正面から向き合っていないとして、いつまで、その状態を続けますか?そして、今の状態が続くことで、まだ自分では気づいてはいないもので失っている大切なものがあるとしたら、それは何でしょうか?