代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第132回 社長には感謝しています。でも、(自分は)今のうちにもっと、、、

ある業界で、T社長は、ちょっとそのエリアでは同業他社の社長からも一目置かれてる方です。勉強熱心で、他社で実施されている制度も、次々と導入してはその効果を検証していました。

他の会社同様、T社長の会社も採用には本当に苦労していました。でも、今は、以前に比べて、採用が比較的ラクになってきています。

流動化の激しい業界にあっては、入ってもすぐにまた別の会社に転職というのは、ありふれた光景。しかし、他社を経験して、この会社に入ると「働きやすさ」が別格だというのです。

その業界は、他業種が一緒にプロジェクトで働きます。一緒になった企業の人達が、その会社の人達と食事や喫煙場所でふれあう時、その会社の人達がイキイキと働いているので、他社の人達が聞いてくるようです。

「そんなにいいところなら、一度話を聞いてみようかな。」そんな流れが出来つつあります。まさに理想的な流れで、人が集まる会社になってきました。

同業他社は一生懸命、自分の会社を振り向いてもらうためのに必死。それでも充足しない。その会社の場合、採用計画の四分の1が採用希望者からのアプローチで埋まっています。これは、かつて無かったこと。


その会社は以前からこうだったわけではありません。わずか2年前までは人を採用して、採用して、採用して、、、、それでも、採用した分だけ辞めていく。

仕事は取れても、仕事が裁けない。そういう状況に陥っていました。しかし、それが一変します。何が変わったか。

社員が入れ替わったわけではありません。事業の内容が変わったわけでもありません。給与が高くなったわけでもありません。変わったのは、社員が自らの成長を実感するようになったことです。


T社長自ら、このプログラムを実践して、20年来ただただ作業に徹していた50代、40代後半の責任者の変化を実感。

社長に就任して、10数年、T社長の感覚でいえば、100回どころではなく、1000回、1万回と。同じ事をことある毎に、幹部言い続けてきた。

様々なセミナーにも参加させた。セミナーの後に、宣言もさせた。年初に、目標シートも書かせた。だけど、全くといって良いほど変わらなかったのが、40代、50代の幹部の行動。幹部を総入れ替えするほうが早いという思いが日に日に強まっていたそうです。

それが、怒鳴ることもなく、大声だすこともなく、ただ、4ヶ月間で、6回ほど30-40分面談。口角泡を飛ばすこともなく、イライラすることもなくすーっと、すーっと、十数年変わらなかった幹部の行動が変わった。

当初T社長は、自分だから出来たことでした。その後、幹部が同じプログラムを実践すると、その幹部の部下もまた実践した幹部が驚くほどの変化したと。

これを導入する前の数年間とこれを導入したわずか6ヶ月。数倍のスピードで社員が変わるのです。それも、意図した方向へ。

幹部から、更にリーダーへと勝手に広まった部署もありました。すると、その部署では、プロジェクト辺りの利益が改善したそうです。

手戻りが減り、誤発注、発注遅れにが減ったことで、損失が減って、利益率の改善がいくつものプロジェクトで実現したと。まさに良いことづくめ。


利益改善がこれほど簡単に進む(全部じゃないですが)とは思っていなかったとT社長は振り返ります。

中でも、A氏の改善には目を見張ったそうです。数字、数字、とあれほどがなり立てても、発注遅れがなくならなかったA氏が、別人かと思うほど、期日前に発注ができるように
なったこと。

会議で、いつもいつも問題社員として名前が挙がっていたA氏の行動変化は、他の幹部達が目の色を変えてこのプログラムに取り組むきっかけにもなったのでした。

社員の表情が変わったことも、副次的な産物でした。回り回って、採用の改善につながろうとは思ってもみなかったそうです。

受注調整しなくてはならないという、経営者としては、腹立たしい問題が解消に向かっていたったのです。

2期目が終わった時に、費用対効果をどう考えているかをお伺いしたことがあります。導入時にあれほど頭を悩ませた、プログラムの費用。私が「まぁ、すぐに元取れますよ」と言われた時の不信感を思い出し、「1年間で随分と(感じ方が)変わったもんだ!」と、大笑いしていました。

お会いした1年半前には、「これ以上、受注すると、現場が疲弊する・・・!」と深刻な顔をしていたT社長。昨年も10%増を達成し、今年はいよいよ50億へ手が届くところまできました。


プロジェクトが違えば、仕事の内容が全部同じということはもちろんありません。しかし、収める製品の仕様、機能は、ほぼどうようのものを収めることもあるし、日々の作業内容を考えると、6割-8割は同じ事の繰り返し。

中途採用の場合は、ほとんど前の会社とやることは同じ。給与も同じ。数ヶ月もすれば、入社当時の清々しさは薄れ、目の輝きは失われ、体の動きも、思考のスピードも緩慢になっていく。

以前、T社長も、技術部門の幹部の面々も、そうした社員の姿にことには気も止めていませんでした。

「そういうもんだ、誰でも、そうなる。」と。過度な期待をせずに、ただ、言われた通りやってもらって期限通りに収めてもらえばそれでいい。

人件費が高騰する中で、一番高い給与を出すなんてことはもちろんできない。給与がそこそこなら、来る人だってそこそこ。それでいい。多少のクレームも出るのも仕方がない。だって
そこそこなんだから。多少の入れ替えだって仕方がない。駄目な奴はダメだから。

T社長はともかく、技術部門の幹部の人達はそうやって仕事を進めてきてました。かくして、人が足りなくなって、キュウキュウで走り回る構造に陥っていたのです。


一方、T社長は、この状況を変えない限り、将来がない、と感じるようになったそうです。やがて、入社する人数が更に減り、退職者が増え続けたら終わりです。どうしよう。どうしよう。どうしよう。不安が募ります。

少しでも他社と違う魅力作りをしたら、定着率も向上するのではないか。そう考えて、工夫している会社の記事を雑誌で読んだり、セミナーで聞いた表彰制度を積極的に取り入れました。

しかし、そうした事は、最初は盛り上がりました。2回目、3回目となると、形骸化して
しまい、思ったような成果は続かなかった。

そこで、仲間を増やそうと考えました。自分が実際に聞いて、「これはいい!」と思ったセミナーへ、派遣費用も考えると、安くはない費用に目をつぶって幹部社員を送り込みもしました。

何かは感じてくれたはず、と自らに言い聞かせはするものの、行動の変化は見て取れない。そうしたセミナーにも参加させたのに、クレーム数が逆に増えるような社員もいて、これまた全ての試みを一端止めようかと思ったこともあったと。

それでも、打ち上げ花火ではダメだで、継続的に行う試みも模索しました。そのひとつは、多額の費用と専任部署まで作って導入した人事評価システムです。導入して2年。やる意味があったのかと疑いが頭の中を覆い始めた時でした。

T社長と出会った時、まず口をついてでたのは評価システムに対する不満でした。評価システムの話になると、いつもT社長が口にするエピソードがあります。

試験導入が始まって、1年後のことです。報連相も早く、新しいことにも積極的にチャレンジする20代後半、入社2年目の若手の社員がいました。

T社長は、その社員と一度営業同行して、移動しながら話を聞き、とても頼もしいと思い、幹部候補の一人と密かに思い定めていました。その彼が、評価面談をした時、退職届を持ってきたそうです。

「T社長には感謝しています。でも、(自分は)今のうちにもっと、チャレンジしたい!」と。評価制度の特色のひとつでもあった、チャレンジ目標を設定してそのチャレンジ目標の評価も高かった人間が辞めていく。

こんな皮肉なことがあるものかと、怒りがこみ上げてきたと、社長は言っていました。


社員が成長する場を作りたいと心から願うようになった社長にドンピシャに当てはまったのがこのプログラムでした。

「社員がイキイキとしているのは、社員が成長を実感できるからだ!」いつぞやのセミナーで私が言い放った、この言葉に惹かれて、このプログラムの導入を決めたという社長でしたが、今、それが実践しつつあると、嬉しそうにおしゃる。

しかし、この会社がこれほど短期間にこれだけの変化をしたのは、T社長の並ならぬ熱意が、組織への浸透スピードを上げたことは間違いありません。


「良い社員から辞めていく」社会の中にある不文律です。しかし、成長できないから辞めていくのではありません。

成長していても、成長を実感できないことが問題なのです。なので、成長を実感できるような仕掛けがあればいいのです。

本来の成長を実感できる仕組みが人事評価システムのはずなのですが、残念ながら、これがほぼ機能していないのが実態です。

だからといってあきらめる必要はありません。もっと簡単に導入でき、向上心ある社員ですらも成長を実感できる、やり方があるからです。


さて御社の場合は如何でしょうか?

将来有望な社員により達成感を感じるしかけがありますか?それとも、何も準備できず、指の間から砂がこぼれるように有望な社員が辞めていくのを眺めていますか?