コラム「組織の成長加速法」-第226回 成果を生み出す組織を、意図して創った男が取った行動とは?
「木村先生、私、どうしたらいいのかわかりません。」
Mさんがっくりと肩を落として、そう言いました。
3年前、ある社長からご相談を受けMさんとお会いしました。Mさんは、40半ばで支店長に昇格して3ヶ月ほどたった頃でした。
穏やかな物腰とは裏腹に、内面は焦燥と自己否定の嵐。
支店長になったものの、部下は動かず、数字は伸び悩み、「なぜ自分はうまくいかないのか…」と自問を繰り返していたのです。
そんなMさんが今、どうなっているかというと——
複数支店を束ねるエリアマネージャー。しかも、5名の支店長の配下の営業マン4名が、全国営業ランキングトップ15に名を連ねています。
部下の部下までもが成果を出す、垂直・水平両方の展開が成功しているのです。
こんな“成果が生まれる組織”は、偶然ではありません。意図的に創られたものなのです。
【1】「反省が止まらない」マネージャーが気づいたこと
お会いした当初のMさんは、常に物事をマイナスに捉えるようになっていました。
予算を達成しても「たまたまだ」と言い、未達のときには「自分のせいだ」と深く落ち込む。
自分の至らなさに目を向けることは大切ですが、反省だけでは人は前に進めません。
反省を自ら重しにして潰れてしまう人と、反省をバネにできる人がいます。これは性格や経験がそうさせるのではありません。反省して苦しむのか、反省をバネにするのかも、“技術”なのです。
Mさんと一緒に状況を棚卸してみると、実は、うまくいっていることもたくさん見えてきました。
にも関わらず、Mさんは「全てうまくいっていない」という幻想に支配されていたのです。
人間は動物です。でも、“意図”を持って行動できるという点で、他の動物とは違います。
Mさんには、まず“意図して動く”ことから始めていただきました。
【2】「部下が動かない」問題の、本当の正体
Mさん自身は、会社から与えられた目標に対して、自ら進んで取り組む方でした。
しかし、部下たちは違いました。「どうせ無理」「また上が言ってるだけでしょ」と最初から諦めていたのです。
Mさんが、そんな部下達をなだめすかして指示をすると、1日か2日は頑張る。でも、3日目には元通り。この“戻り現象”に、Mさんは本当に頭を抱えていました。
でも、ここが大事な視点です。
目標達成の意欲が高い部下がいたらチームの予算は達成できる。でも、部下の意欲が低ければ予算達成はできない。
これでは、リーダーの意味がありません。
むしろ、目標達成意欲が高い人のほうが少数派だというのが現実です。
大半の人は、そもそも「やる気満々」ではない。でも、そこに働きかけて変えられる技術があります。
目標達成の“仕組み”は、どの企業にもあるのです。問題は、それが“運用”されていないことなのです。
【3】全国トップ営業マンは「技術」で生み出せる
Mさんが取り組んだのは、「部下のやる気に振り回されない技術」の習得です。
その結果、Mさんが育てた営業マンたちは、次々と全国上位にランクイン。
もはや、“たまたま成果が出た”のではありません。
社員はそれぞれ違う動機で働いています。
家族のため、評価のため、成長のため、社会貢献のため、遊ぶ金のため——
その動機は一人一人違い、日によってもコロコロ変わる。
だからこそ、リーダーはこうした“動機のブレ”を安定させるスキルを持つ必要があります。
マネジメントのツールを使えば、社員の内側にある動機の源泉を引き出すことができます。
そのうえで、適切なタイミングで“火をつける”——これも技術です。
Mさんはそれを身につけ、いまや手間も時間もほとんどかけずに、成果を出し続けています。
【4】マネジメントは「素手」でやってはいけない
営業マンは、お客様を動かすプロフェッショナル。
でも、その営業マンが、社員を動かす場面では苦戦することがよくあります。
なぜか?
それは、「素手で」マネジメントしようとするからです。
難しい仕事を前にしたとき、分割したり、手順に分けたりしますよね?
マネジメントも同じです。複雑な人の心を扱うには、構造化された技術が必要です。
トップセールスマンであっても、社員を動かすためには2つの鍵が必要。
それは、「相手との距離を保つ技術」と「動機を安定させるツール」です。
Mさんはこの鍵を手に入れたからこそ、組織を変革する“経営人材”へと進化できたのです。
【5】さて、御社ではどうでしょうか?
・成果が上がらないのは、やる気が足りないから?
・それとも、仕組みや指導方法がまだ素手のままだからでしょうか?
御社のマネジメントは、意図して設計されていますか?
それとも、毎日の業務に追われるなか、場当たり的に行われている状態でしょうか?
「成果を出す組織」は、偶然の産物ではありません。
意図して創る。そのための技術と、それを使いこなすリーダーが必要です。
御社には、その“鍵”がありますか?