コラム「組織の成長加速法」-第225回 「一生懸命という空気」に潜む罠!組織が止まる本当の理由
頑張っているのに成果が出ない──その理由を直視できていますか?
先日、ある創業経営者の方とお話する機会がありました。
「いやぁ、うちの社員はみんな本当によくやってくれてますよ。文句ひとつ言わず、遅くまで残って頑張ってくれてますから。」
この言葉を聞いて、私は胸が痛くなりました。
というのも、こうした“現場の一生懸命さ”に支えられた会社が、いまひとつ結果を出せていないケースを、これまで何度も見てきたからです。
経営者としては、その努力に感謝し、信頼したくなる。
けれど、その「一生懸命」という空気感こそが、組織を停滞させている――そんなことが、実際に起きているのです。
前進している「つもり」になっていませんか?
現場は頑張っている。
雰囲気も悪くない。
数字も、極端に悪いわけではない。
しかし、経営者として感じるのは、「思ったほどの成長が実現できていない」というもどかしさ。
このギャップが生まれる背景には、ひとつの構造的な罠があります。
それは、「頑張っている」ことと「前進している」ことを混同してしまう、という落とし穴です。
真面目に働いている社員たちが、実は“同じ場所をぐるぐる回っているだけ”だとしたら?
競争環境の中でこれは、じわじわと致命傷になっていきます。
社員に任せているつもりが、ズレを生んでいる
多くの経営者がこう言います。
「ちゃんと任せてますよ。現場の判断で動けるようにしています。」
たしかに、それは理想です。
しかし、私が多くの現場で見てきたのは、「任せたつもり」だけが先行し、後退しているという状態です。
たとえば、あなたが「30階建てのビルを建てよう」と考えているのに、現場は「2階建ての家」を建てるために動いているとしたら?
使う資材も道具も、何もかもが違ってきます。
そのまま時間だけが経過して、完成したのは“立派な2階建ての家”。
それを見て、「違う、これじゃない」と言いたくなるのは当然です。
「うちに限って、そんなはずは…」という思い込み
経営者であればあるほど、こう思いたくなるものです。
「いや、うちはちゃんと擦り合わせ出来ている。方向性を伝えているはずだ」
「まさかそんなズレが起きているなんて、考えにくい」
しかし、結果が出ていないなら、どこかにズレがあるはずなのです。
実際、ある技術部門の本部長と話をした際にも、こんなケースがありました。
「自分はマネジメントにも力を入れてきました」と語るその本部長に対して、経営陣の評価は真逆。
「技術力は高い。しかし、組織のマネジメントはまったくできていない」と。
本人に悪気があるわけではありません。むしろ、自分はちゃんとやっていると思い込んでいる。
その“思い込み”が、組織の停滞を引き起こしていたのです。
見えないズレは、気づかない限り絶対に修正できない
私は、その本部長に直接「できていませんよ」とは言いませんでした。
代わりに、異動してきた部下に簡単な指導をしてもらうよう依頼し、その様子を見てもらいました。
すると本部長は、自分の指示がまったく伝わっていないことに気づいたのです。
その瞬間、表情が変わりました。
“伝えている”ことと“伝わっている”ことの間には、大きな溝があります。
このズレは、相手に悪意がないからこそ、根が深いのです。
経営者が直視すべき問い
一生懸命働いている社員たちに、安心していませんか?
その空気感に、少し酔っていませんか?
そして、自社の現状をこう見ていませんか?
-
やっているはずなのに結果が出ない
-
伝えているはずなのに噛み合っていない
-
目標はあるのに、組織が向かっていない
もし心当たりがあるのなら、それはズレが生じているサインです。
まとめ:未来を掴む組織の共通点
私がこれまで関わってきた“前進し続ける組織”には、ひとつの共通点があります。
「ズレに気づいた瞬間に、修正に動くスピードが速い」ということです。
放っておけばズレは深刻化し、やがて組織の体力を奪っていきます。
逆に、ズレを修正できれば、組織は一気に加速します。
このズレの修正する機能は、組織の中に内包することができます。早くこの機能を組織内に定着させるべきなのです。
ズレの修正が出来ない組織は、学習のスピードも上がりません。新しい取組、新しい学び、新しい挑戦、、、新しいこと全てが進まなくなってしまいます。
「ズレに気づけなければ、全てが上滑りになる」もまた真なり、です。
御社ではいかがでしょうか?
社員は今、何階建ての建物を建てようとしていますか?
そして、あなたの考える“30階建てのビル”は、現場に本当に伝わっているでしょうか?
ズレに気づき、行動に移す勇気。
それこそが、御社の未来を決める経営者としての覚悟です。