代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第94回 成長組織には考える社員が多数いる。そして増えていく。

あるサービスを全国展開するH社のF取締役は、創業後、間もなく入社され、社長とともに全国を文字通り飛び回って、創業期を支えたメンバーです。

行動力、決断力にかけては社長も全幅の信頼を置いています。一方、少し気にかかることがあります。それは、部下を育成する力が足りないとこと。

いまだにフットワーク軽く、どこにでも飛んでいくF取締役ですが、組織の拡大に合わせて、強みが弱点を上回るようになります。

F取締役に新店舗の立ち上げを任せると、早期の黒字化は確定したも同じこと。ところが、早期黒字化の後、低迷してしまうケースが最近さらに目立つようになってきました。

原因は、F取締役が立ち上げ期間を終えて、別の業務に転じると、手放した店舗で退職者が出たり、売上の上昇が止まり減少に転じてしまうのです。


どのような業種であっても、創業期の会社にとって、立ち上げ資金の早期回収は多店舗展開するためにには生命線です。立ち上げ半年間で黒字化するのか、1年かかるのか、必要資金は雲泥の差を生み出します。

競合他社が驚くほどのスピードでH社が店舗展開を実現できたのは、F取締役の功績によるところが大きいのです。

快進撃を続けるH社は、外部からの資金調達も容易になってきました。店舗も、40店舗を数え、西日本、中部・近畿、東日本とエリアが分かれるようになった今、早期の立ち上げも、もちろん重要なのですが、それ以上に、重要な指標がクローズアップされるようになったのです。

その指標とは、既存店舗の継続的な成長です。既存店が成長し続けることで、新規店舗の投資は正当化され、そしてまた資金を投下する。投資家にもこれが強く求められるようになっていました。


組織の成長過程において、当初、会社を支えてきた幹部の強みが、弱みに変わることは少なくありません。H社にだけ起こることでもなく、また、F取締役だけに起こることではありません。

会社が大きくなるということは、組織の役割も少しずつ変わるということ。必然的に経営幹部の役割も変わっていきます。創業期から、成長期へ組織が拡大していく中で、幹部は新しい技術を身に着ける必要があるのです。

組織の成長と共に、幹部の役割は変わりますから、いつまでも自分の強みだけで勝負できることはまずありません。もし、「自分は、これまでのやり方だけで十分勝負できている」と考えるとしたら、少々危険な状態にあると思って大きくずれていないはずです。


F取締役は、決断力がすぐれ、行動力に長けている人でした。どこの組織でも、大活躍されただろう、いわゆるハイパフォーマーです。

<<営業力が弱い組織は生き残ることはできない。>>

F取締役は、この信念のもと、立ち上げ当初に、大量の営業行動をとらせることで、短期的に売り上げを上げるという手法を展開していたのです。

一方、すべての指示はF取締役が直接スタッフに出していました。そして、すべての報告もF取締役が直接スタッフから受けて、その内容に応じて的確な指示を出していました。

新規店舗立ち上げのスタッフにとっては、すべてが新しいことの連続でしたが、F取締役には、すべてが経験済み。指示も、報告を聞いて出す改善ポイントについても無駄がありません。

新規店舗開発は半年間でしたが、前半3か月は、ほぼ張り付き状態ではじまります。後半三カ月は、後任に任せるべく徐々に業務を移管していくことになっています。

F取締役は、自他ともに認めるせっかちな性格なため、この後半三カ月もぎりぎりまで自分自身でやり切ってしまいます。F取締役にしてみれば、自分が抜けることで、売り上げの増加が鈍化することも織り込み済みでした。そこで、その分、営業量を増やし、売上の前倒しを図っていました。

次の立ち上げ店舗に赴くぎりぎりのタイミングまで、F取締役はスタッフと密接にコミュニケーションをとり、F取締役は強力に営業を推し進めるのです。いよいよ期日がくると、突然、F取締役の業務が店舗スタッフに全て移管されるのです。こういうと聞こえがいいのですが、
完全にいきなり丸投げ状態。本人はそんなつもりはなく、ちゃんとフォロアップもしているとのことでしたが、F取締役から丸投げされた支店長たちはそのようには受け取っていませんでした。

取締役にしてみれば、半年間で身についたことをただ実践するべいいという考え方だったのですが、現実にはその通りには動いていなかったのです。


F取締役が去ったある店舗の話をいくつか実際にかかわったスタッフ、支店長から数名聞く機会がありました。F取締役が立ち上げ時期が終わり、店舗を去ったのち、どのようなことが起こるのか、聞いた話を大まかに振り返ると、

F取締役が抜けた後の組織は喪失感に襲われ、そして徐々に混乱が広がっていくのでした。後任とされた店長は、「F取締役の代わりを自分が勤めることなどとてもできない。」という気持ちを持ち続けます。F取締役から後任を託されるくらいですから、やる気も高く、行動力もある人が選ばれます。ところが、F取締役が去った後、新店長は、日に日に元気がなくなっていきます。

新規の立ち上げを共にした3-4名の社員は、F取締役の自信に満ち満ちた指示に慣れきってしまっています。最初は店長のことを支えようという気持ちでいるのですが、一カ月もしないうちに、新店長のアラばかりが目に付くようになり、次第に店長に非協力的になっていくという展開です。

狭い空間で、修復不可能な両者の溝が深く大きくなるに従って、対立は先鋭化していきます。店長がやめるか、批判をする急先鋒の部下がやめるかという、どちらに転んでも、悲劇的な結末に進んでいくケースも少なくありませんでした。


組織の成長には、強力なリーダーシップが必須と考える向きがありますが、私はそうは思いません。実際、強力なリーダーシップを持つ人は、そうしたニーズを満たすほど多くはありません。強力なリーダーシップを持つ人を待っていても、そうした人が現れるとは限らないのです。

人が待望する強力なリーダーシップの持ち主は、さながらスーパーマンです。そうしたスーパーマンがいなくとも組織が持続的な成長になるように考えるほうが現実的です。

スーパーマンじゃなくても、普通の人ばかりでも組織が成長を持続するために必須なことが
あると考えています。それは、考える社員を増やすことです。
普通の社員が普段から考えるようになれば、組織の鮮度はみるみる回復し、成果が劇的に改善していきます。

考える社員を増やす方法は、技術として確立しているので、あとは、練習をして、その技術を使いこなすだけです。


F取締役自身、4カ月後には、最初から部下に自分から指示することはほぼなくなりました。まず相手に考えるように促すことができるようになるのです。

F取締役とは、明確なスケジュールを決めて、進めました。途中、予算割れするのではないかという恐怖感から、F取締役は、ずいぶんと抵抗されました。

が、結果的に毎月の予算も、半年累計予算も達成できました。更にその後も持続的に成長する店舗を作れるようになりました。

社長と図って、F取締役には、成長低迷店舗の担当もしてもらいました。見事に回復に導いていただいたわけですが、その結果を踏まえて、F取締役が言ったことがあります。

「売上低迷の店舗の店長であっても、何をやるべきかよくわかっていることに驚いた」といいます。H社の場合は、マニュアルもしっかりそろっていましたので、やり方がわからないから動けないという人はほとんどいなかったのです。

問題は、自分でも正解をしっていても、指示を仰ぐスタイルが身についてしまっていると、人は動けなくなってしまいます。

このことにもFさんは、気づいていただけたようです。なので、「自ら考える」「自ら考える」「自ら考える」を徹底させることが組織の鮮度を保つためには、必須なのです。


私がこのように、「考えさせましょう」というと、部下をもつ多くのリーダーはドン引きします。自分の部下の顔を頭に浮かべると、「自分の部下の場合は、まず無理だというのです。」

ところが、半年間も、「部下が自ら考える」マネジメントの技術を実践してもらうと、「こうすればいいのですね。」という具合に変わっていきます。

言われたステップをこなす人は必ず同じ結果にたどり着きます。こういうと、また誇張だという方がいるのですが、イメージとしては、こうです。

水泳教室をイメージしてください。

どんな人も、必ず回を重ねるごとにうまくなっていきます。5mも泳げなかった人も、25mを泳げるようになるのは、さほど時間がかかりません。泳げないのではなく、泳ぐ技術をみにつけてなかっただけです。

そして、こうした水泳教室の役割は、オリンピック選手を育てることではありません。泳げない人を泳げるようにすることです。

私は、「部下が自ら考えるマネジメント」技術を身に着けることは、もこの水泳教室の事例にとても似ていると考えています。

「部下が自ら考えるマネジメント」とは、25m泳げるようになることとまったく同じ。誰もができるようになる程度のことです。


このマネジメント技術を持っているか、否か。現場を束ねるリーダーにとっては、驚くほどの差を生み出します。この技術を身に着けると、その技術を使って部下に働きかけるだけで、
何カ月、何年間も注意したのに、ピクリとも行動が変わらなかったことが、まるで嘘のように
変わっていきます。

みるみる変化が始まるのです。この技術を手にした上司はもうもとには戻れません。


「工夫」のないビジネスに成長はありません。そして、「工夫」が生まれるためには、社員が当たり前に、「考える」ことが必要です。

というのも、採用に至らなかった沢山の「考え」「アイディア」があって、その中のアイディアの中から「工夫」の卵が産まれ、さらに思考錯誤の後に、晴れて「工夫」と呼ばれるものが出来上がります。

組織が生き残るためには、「もっと良く」「もっと楽に」「もっと便利に」「もっと笑顔に」を考えるしかありません。

社員一人一人が考える力をつけるかに、組織の成長スピードが決定されるようになるのです。


さて、御社の場合はどうでしょうか?

社員は考えているでしょうか?
それとも、考えるのは、誰か別の人で、社員は作業員に成り下がっているでしょうか?