代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第115回 短期的に部下の成果を劇的に変えたいなら○○○○をチェックせよ

とあるNO1企業、幾多の景気の波を乗り越え、業界の成長率を常に上回る成長を続けてきたR社。業績の拡大、社員数の増に伴い、管理系の業務が回らなくなり社員からも不満が上がるようになってきました。

そんな中、営業事務の中でも、もっとも経験が長く、仕事も早いSさんなら、なんとか対応策を見つけてもらえるのではないか、M社長は、そう考えました。自信がないことを理由になかなか首を縦に振らないSさんを説得し、人事、総務、経理を任せることにしました。

そうして誕生したS部長は、仕事も早く正確、おまけにとてもきまじめな性格。「営業さんたちが一生懸命お客様のために働いて、そのお陰で私たちはお給料を頂いている。だから、私たちは、社内の人のために、どんな依頼も断らず、全て対応するべき」という考えの元に、取り組みを開始したのです。

最初は、社長も含めて、S部長のスローガンを賞賛し、社員の鏡とまでももてはやされたのですが、そのうち雲行きが怪しくなってきました。

Sさんが部長として、統括するようになってから2年。残業時間が社内ダントツのトップ?の部門として不名誉な状態が続くことになっていました。途中、社長と常務が見かねて、2名社員の補充をしたにも関わらず、Sさんも含め5名全員の残業時間が、右肩上がりで増え続けるのでした。

常務が見かねて、S部長に業務の棚卸しをするようにしたところ、元々は営業の仕事だったことが、いつのまにか総務、経理の仕事になっている、そんなことのオンパレードだったそうです。

棚卸しの結果を踏まえて、常務から、営業部門の部長、S部長、双方に対して、業務分担の見直しが厳命されました。その結果、人事、総務、経理の残業は一時的に減ったものの、1年後には、また元通りになったのです。

常務がまたS部長に確認したところ、確かに営業部門の依頼事項は減っていましたが、絶好調の受注活動に伴う全社の諸々の雑務が想定以上に増えていたのです。

常務は激怒したそうです。なぜなら、S部長に対して、受注拡大に伴う業務増を見越して、効率化と電子化を進めるように伝えていたにもかかわらず、1年間全くその点については手つかずだったからです。

常務がS部長にできたなった理由を確認したところ、「システムややり方の改善のために、一時知的にせよ営業メンバーに負荷がかかることを考えると、導入を躊躇した」というものでした。


R社のS部長に起きたことは、どんな会社にも見て取れる現象です。S部長は、常務の言っていることが間違っていると反対した結果、システム化や効率化を見送ったわけではありませんでした。

常務から指示を受けた時、S部長も、常務の言うとおり、システム化も、効率化も急いで進めるべきだと思ったのです。ところが、実施を具体的に検討するにつれ、一時的にせよ、営業に迷惑がかかることが判かってきました。

昔のスローガンがゾンビのように生き返ります。「営業さんたちをラクにするために私たちはいる、営業さん達の負担を増やすことなんかできない、あんなに頑張ってくれているのに。」

そして、優先順位が書き換わります。「私たちが頑張ればいい。私たちが努力して、少しでも早く作業すれば、それほど残業は増えずに済むはず、よし頑張ろう!」


こうしたS部長の判断、考え方、行動に関して、多くの人は次のように分析します。

S部長は、視野が狭い
S部長は、あまりにも目の前のことに捕らわれている。
S部長は、新しいことに取り組むのが苦手なんじゃないか?
S部長は、そもそも部長としての器量が備わっていない
S部長は、考え方が間違っている
等々

しかし、この分析をしたところで、物事は解決しません。分析結果が正しくても、その結果、何かが変わることはありません。

大切なことは、正しく分析することではなく、これをまるっと現実として受け止めた上で、マネジメントの仕組みを構築することです。

優先順位は、一度確認したところで、必ずズレるものとして、対処方法をマネジメントの仕組みに組み込むことが必要なのです。


なにやら難しいことのように感じるかもしれませんが、心配は無用です。この優先順位をアップデートする方法は、誰でも簡単な方法で行うことができます。しかし、正しいやり方で行わないと、逆効果になるので注意も必要です。

注意点としては2つ。1つめは、相手の経験値を考慮して、明確に伝え方を変えること。2つめは、優先順位のアップデートの間隔を適切に保つこと。これさえ注意すれば、誰でもすぐにでも始められ、ほとんどの場合は上手くいきます。

実際に、この優先順位のアップデートが正しくできるようになると、特に営業組織では、短期間に驚くほどの成果が生まれます。

ここ3ヶ月の間で実現されたことの中から、抜粋すると、

・数年間予算達成できなかった店長が、正しく優先順位アップデートをしただけで、いきなり予算達成率トップになる
・契約率が低かったベテラン営業マンが、いきなりトップセールスマンに肉薄する売上げ実績を出す
・自分は営業に向いていないと戦場放棄をしていた営業3年目の営業マンが、社内トップレベルの契約率を叩き出す

といった具合です。


さて、御社には、この優先順位を常にアップデートす仕組みはあるでしょうか?
それとも、優先順位のズレが、そのまま乏しい成果を生み出し続けているでしょうか?

もし、優先順位のズレが解消されていないとしたら、この先にある組織の未来はどのようになっていくでしょうか?