代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第116回 社員の変化は10年かかる!は○○○です。

ある業界のトップの企業のY社長。折り入って相談があると弊社にお越しになりました。

Y社長は、創業から数えて5代目の社長。4代目までは、創業家出身の世襲制だったそうです。
Y社長が初の生え抜きの社長です。温和な語り口ながら、時々見せるキラリと目の奥が光ります。相当な営業力をお持ちだったんだという印象を私は受けました。

業界トップとはいえ、業界全体は規模が縮小する中で、シェアを更に拡大し、PB商品等の開発などを手がけていきたいとお考えでした。

Y社長の代になって、業界3位からトップに躍り出て、シェア拡大の一途でしたがここ数年は、2番手、3番手の追い上げが激しく、製造元に対する発言力の低下を非常に懸念されていました。


Y社長は言います。代が変わってからそれまでのやり方を全部変えたのだと。一番大きな改革は、年功序列制度を止めたことでした。そして、営業のやり方、プロセスを変え、見事に業界トップの座を勝ち取ったと。

年功序列制度から、インセンティブ制度に変えた時は、多くの社員が辞め、一時的に売上げが停滞したそうです。ところが、その後、筋肉質の組織に生まれ変わったと胸を張りました。

人と組織にまつわる話を伺う中で、Y社長自らが手をかけたという、50代の男性の話には、特に熱が入りました。

ダメダメ営業マンが、様々な試みを経て、最後は営業部長になったという逆転劇。その営業マンが43,4の頃、上司からも部下からも信頼を失い、退職の相談を隣の部門の部長にしたそうです。その時の部長が、今のY社長。

Y社長は何度もその男性と膝をつき合わせて話、間接的に指導を繰り返したそうです。いろいろと注意するも聞く耳を持たず、やがてYさん自ら降格を進言し、減給もしたそうです。なんとか這い上がって欲しい。その思いもむなしく時間は過ぎていきました。

それから数年後、何が転機か定かではかったのですが、その方は変わり始めたそうです。いつの間にか、営業のトップグループにいつも顔を出すようになりました。

そして、ついに、かつてYさんが率いた部門のトップとして、営業部長になり退職までの間、勤め上げたというのです。その男性の話の最後にY社長がいった言葉が印象的に残っています。

それは、「結局かわるまで10年かかったけど、人なんてそんなもんだろう。」そう締めくくっていました。


Y社長にお会いしてから数日の後、50億円規模の会社の社長と話す機会がありました。偶然にもその社長も、「人が変わるのは時間がかかる、10年かかった。。。」そんなお話をしていたのです。

「世の中は悪人だらけ」そう決めたかかると、人はその「決めてかかったこと」に影響を受けています。

悪人だらけなんだから、絶対に信用してはだめ。
悪人だらけなんだから、常に監視しないとだめ。
悪人だらけなんだから、原則「NO」と答えるところから。

何を是として、何を非とするか。これは、リビングの照明のスイッチをパチパチ、パチパチと、切り替えるが如く、ほんの些細な違いですが、人の行動には大きな影響を与えます。何を前提としているのか、それが人の行動、言動を決めていくのです。

仕事に関わることは、仕事を通して得た、経験からいつしか前提が作られていきます。知らず知らず、さまざまな前提が作られていくわけですが、特に経営者の場合は、その影響は小さくないので注意が必要です。


そうした前提の一つが「社員の行動変化が変わるのには時間がかかる」です。実際、そう考えている経営者は少なくありません。

確かに、今日の明日で行動は変わることはまずありません。しかし、多くの経営者が自ら経験した結果、10年かかる、、、といわれると、本当に残念だなと思います。

私自身、組織をまとめる力が無かった頃、否、組織を次々に破壊していた頃、「人なんかそうそう変わらない」と言ってはばかりませんでした。

ですから、「社員の行動は時間がかかるもの」と経験からそう感じ、それがいつか確信に変わったに相違ないことはよくわかります。

しかし、それは間違いなのです。

創業経営者の場合は、特にその間違いに気がつかず、その「間違った前提」に縛られてしまう方が多いです。

マネジメントがしたくて起業する人はいません。必要に迫られてマネジメントに携わっているのです。

取引先からゴルフを誘われて、断り切れずにやることになり、見よう見まねで練習して備える。そんな状態に似ています。

ビギナーズラックはあるかもしれませんが、我流ゴルフで急速に上手になることはありません。

一方、途中からゴルフ教室に通い、正しい練習のステップをして、指摘を受けながら、フォームを改善していくと、短期間に驚くほどスコアが上がります。

この違いは、筋肉の量が変わったり、反射スピードが2倍速になった結果に起こるのでは
ありません。あくまでも、「正しいやり方」に巡り会ったか否かという小さな違い。長い時間で考えると、ほんの短期間にその技術を詰め込むことで、驚くほど大きな違いを生み出すことができます。


情熱と根気があれば、長い時間をかけて社員の変化を生み出すことはできるでしょう。ですが、どう考えても、10年は時間がかかりすぎです。100人いたら、延べ1000年かかる計算です。これでは組織が持たない。

変化すること、これは貴重なことですが、それだけでは十分ではありません。変化と、そのスピードが重要なのです。

変化のスピードは些細な違いから生まれます。それは、「人は変わるのに時間がかかる」という前提を捨てること。そして、変化のスピードを上げるための方法を追求することです。


余談ですが、Y社長から詳しく聞いたことがあります。その中の一つは、Y社長が改革したものの中で、何が有効で、何が有効ではなかったのか?を確認をしていきました。Y社長が自ら話していて、驚いた顔をされていた印象的なことがありました。

インセンティブを導入後の変化にまつわる内容です。私が聞いたのは、実際にどれだけの人の行動が変わったか。導入当初がもっとも顕著な違いがあったそうですが、実際に行動が変わったのは2-3割だそうです。

今問題になっているベテラン社員は、動かなかった7-8割社員がぶら下がり社員として問題になっていったと。このお話した時、「動いたのは、2-3割だったんだよなぁ」と独りごちていました。


さて御社は如何でしょうか?

御社の経営幹部は、社員を着実に変化させる技術を手にしているでしょうか?
それとも、10年かけたら変わるかもしれない、もしくは変わらないかもしれない、壮大な実験を繰り返しているでしょうか?

組織の成長スピードに、社員の成長スピードはついていっていますか?