コラム「組織の成長加速法」-第245回 組織を掌握せよ!リーダーが身につけるべき「人を動かす技術」の本質
組織を掌握することの「錯覚」
かつて私は、あるベンチャー企業の急成長期に身を置いていました。社員数十名があっという間に数千名規模になる、そんな激動の1年半でした。
当時、マネジメント経験が浅かった私は、ある大きな錯覚をしていました。 「みんなに『いい話』を伝えれば、組織全体が動くだろう」 あまりに恥ずかしい話ですが、当時は真剣にそう信じていたのです。
新規事業の成否を握るシステム部門のトップとして、全拠点の代表を前に練りに練ったプレゼンテーションを行いました。壇上に上がった私は、膝がガクガク震えるのを抑えることができませんでした。あんな光景を目にしたことはなかったからです。
結果、プレゼンテーション自体は思いのほかうまくいきました。業界トップの座を確実なものにするためにも、社内のシステムが稼働することは絶対条件だったのです。
しかし、その後どうなったか。 一対多でどれだけ素晴らしいビジョンを語っても、現場は全く動きませんでした。
これはシステム部門に限りませんでした。比較的少人数の企画部門トップの時も、その20倍規模の人数をまとめる営業部の事業部長の時も、さらに重責となったCOOの時でさえ、同じ現象が起きたのです。
そこで私は、一つの真理を痛感しました。
組織を掌握するとは、全体を動かそうとすることではない。 目の前の「1人」を確実に動かすことの積み重ねである。
1対1で目の前の部下を動かせない人間に、組織全体を動かすことなど不可能なのです。
1500名のリーダーから見えた「95%の壁」
これまで振り返れば、1500名を超えるリーダーの方々と対話を重ねてきました。その膨大なデータの中から、ある衝撃的な事実が見えてきました。
それは、私が出会った95%以上の方が「自分とはタイプの違う部下をどう動かせばいいかわからない」と悩んでいるということです。
「自分と相性の良い人」「感覚が合う人」であれば、なんとなくマネジメントできる。しかし、自分と考え方が異なる人に対しては、手が止まってしまう。これは裏を返せば、「組織の95%の人材はマネジメントできていない」という厳しい現実を突きつけています。
自分の経験則だけで人を動かそうとすれば、自分の人生経験にないタイプの人間には通用しません。だからこそ、マネジメントは属人的な「経験」ではなく、誰もが再現可能な「技術」として学ぶ必要があるのです。
「仕組み」に頼る大企業の落とし穴
もちろん、すでに完成された大企業であれば、ある程度は回るでしょう。「言われたことを卒なくこなす」ことに長けた人材が集まり、強力な「仕組み」があるからです。
しかし、仕組みによる効率化は、同時に「失うもの」を生み出します。 それは、現場の「工夫する力」「考える力」「視野広く物事を見据える力」です。
今の日本の大企業にかつての元気がないのは、仕組みに依存しすぎて、個人の「考える力」が削がれてしまったからではないでしょうか。資本力のない中小・ベンチャー企業が同じことをすれば、待っているのは死のみです。
私たちは、仕組み化を進めると同時に、「社員の考える力」を意図的に伸ばしていかなければなりません。
「考える力」を育てる具体的なマネジメント技術
では、どうすれば部下の「考える力」を育てられるのでしょうか? 答えはあります。考えるプロセスをカリキュラムとして段階的に与えていくのです。
例えば、決裁や相談の場面で、以下のように段階を踏んで問いかけてみてください。
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選択させる 「A、B、C、3つの案のうちどれがいいか選び、その理由を答えなさい」
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選択肢を作らせる 「解決策の選択肢を3つ考えてきなさい」
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深掘りさせる 「3つの選択肢を挙げ、あなたがベストだと思うものを選び、なぜそう判断したのか背景まで含めてプレゼンしなさい」
さらに負荷をかけるなら、「もう一つ別の案を考えてみて」と、脳に汗をかかせることも有効です。
こうして強制的に思考のプロセスを作らせることで、5年後、10年後の組織は劇的に変わります。実際にこの手法を取り入れた企業では、「抽象度の高い概念」と「具体的な実行」の両方を扱える優秀なリーダーが続々と輩出されています。
「守・破・離」で加速する人の成長
人の成長プロセスは、武道や茶道でいう「守・破・離(シュ・ハ・リ)」と同じです。
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守(シュ): まずは型(マネジメントの技術・思考法)を徹底的にインストールする。
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破(ハ): 少しずつ型を崩し、応用してみる。
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離(リ): 完全に型を離れ、独自の味を出す。
多くの人は最初から自己流(離)をやろうとして失敗します。まずは「守」を徹底すること。2026年、組織崩壊や離職を防ぎ、組織を強くするためには、一刻も早くこの「型」を組織にインストールする必要があります。
組織は結局「人」である
仕組みは楽ですし、重要です。しかし、仕組みの先にあるリスクをヘッジし、未来を切り拓くのは、いつだって「人」です。
「人が辞めない組織」、そして「人が育つ組織」を作るためにも、単なる業務管理ではない、人の成長を加速させる「マネジメント技術」を、ぜひ貴社の文化として取り入れてみてください。
