代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第76回 経営者の○○○○力が組織成長スピードを左右する

「取締役のYが?え?今更それがわからないて!?そんなこと ないよなぁ。。。ここ半年言い続けていますから」と本当にショックだとばかりに、参ったなぁと、背もたれにドスンと体重を預けるS社長。

取締役のYさんというのは、比較的社歴が浅いため、社長としては、以前からいる役員以上に意識擦り合わせをしてきたという自負があったのです。しかし、社長が考えていたほどには、Yさんには重要なことが伝わっていないことが明らかになりました。

年率二桁の成長を遂げているH社の創業経営者と話していた時のことでした。


意思疎通の問題は、一カ所だけで起こることは稀で、広範囲で起こっていることが多いもの。そこで、社長と状態を確認することにしました。

「社長、3年前と比較すると社員はどのくらい増えていますか?」
「えーっと、3年前ですよねぇ。。。正社員で60-70名ほど増えているのかな。
 今年200名超えましたから。」
「とすると、5年で倍以上に増えてますよね。この5年で、社長が情報発信の
 仕方で大きく変えたことは何かありますか?」
「改めて、そう言われると、、、、、一昨年から、社員総会を、、、」

と近年の変更点がいくつか上がってきました。その一方で、変わっていないことも明確になっていてきました。

創業時には社員全員が、社長が手を伸ばせば届く様な距離にいます。ところが8年目の今は、全国主要都市に支店があります。物理的な距離は創業時とは比較にならないくらい遠くなり、社長自身、社員全員の顔と名前が一致しなくなっていました。

そして、月1回開かれる幹部会には、全国から40名の役職者が集まり、重要方針の伝達、実績の確認の会が開かれています。

一度その幹部会に参加させて頂いたのですが、残念ながら、とても効果的な運営とは言えない状態でした。

社長の話が始まって20分ほどした頃には、居眠りをする者、スマホ画面をチラチラ確認する者もいました。「これでは、わざわざ経費をかけて集まってもこれではなぁ」という状態だったのです。


3人に伝達するのか、30名に伝達するのか、300名に伝達するのか?人数一つとっても、その内容、伝達手段、伝達タイミングが同じはずはありません。

ところが、多くの企業において、組織が拡大して行く過程で、どの場で何が語られるべきか?どんな場で、どのように伝えたらベストなのか?はあまり考慮されることはありません。その代わり、従来通りのやり方で、情報がなんとなく垂れ流されています。

これが、営業パンフレット作成プロジェクトだったら、話は異なります。見出し一つの表現を巡って、喧喧諤々の議論が交わされるわけです。ところが、経営者の情報発信、また、H社のように支店が増えてきた時の本社からの情報発信の仕方はほとんど吟味されずに、行われます。

まず、経営者は、この情報発信の在り方を常に確認し、チェックしなければなりません。それを経ずして、「情報が伝わらない」と愚痴っても、それは当然の帰結というものです。


例えば、組織の拡大が始まり、社員が増えていくステージにある企業で、情報伝達の手段を見直す最初のタイミングは、フロアが分かれるタイミングです。

物理的な環境が変わることは、情報伝達には、大きな障害となります。同じ場所にいたら誰もが分かることが、分からなくなるのです。

フロアが分かれることで自然に行われていた情報伝達が、分断されます。昨日まで当たり前だったことが、当たり前ではなくなる。すると、情報共有の場を新たに設ける必要がでてくるというわけです。


1対多の場面で、特に注意したいのは、社員の属性の違いを意識することです。20-30人までは、社員1人1人と社長は個人的なつながりがあります。

社長の人柄を理解していると感じる社員が社長の言葉を聞くときは、行間を社長の人柄を思いながら埋めていきます。これによって、社長が出す情報は、組織に浸透していきます。心理的な距離が近い人を対象に話しをすると、情報浸透度が高いのです。

ところが、企業規模が大きくなると、社長との距離が初めから遠い社員の割合が増えていきます。社長の人柄に触れる機会が無い社員が社長の話を聞くときは、受け取る言葉が全てです。急拡大する組織の場合、社長の思い広く伝わりにくくなるのは、言葉だけしか伝わらない社員の割合が増えるためです。
その割合は、組織の拡大と共に上昇しますから、社長の考えが組織に浸透しづらくなっていきます。組織の中の情報浸透度は、ドンドン低くなります。


情報浸透度が低くなると、社内では、社員同士のいざこざ、部門間対立などの問題が表面化していきます。これが進むと、比較的新しい社員の離職率が高くなります。

こうしてどこの企業も、この状況に対処を始めます。代表的なものを3つ上げましょう。

・経営方針書を毎朝読み合わせする(方針の共有)
・離れている拠点長同士のミーティングを増やす(情報の共有、場の共有)
・全員が同じ場所を共有する会議体を増やす(情報の共有、場の共有)

どれもやらないのと比べるなら、間違い無くやった方がいいのですが、こうしたことだけでは、十分とは言えません。情報浸透度を改善するためには、重要な鍵があります。

それは、社長の自身の発信内容の吟味です。


情報浸透度を維持しつつ、組織の運営をしている経営者のやり方を2つご紹介しましょう。この2つを意識しながら情報を取り扱うと、経営者の情報発信力は向上します。

1つは、量です。
組織が大きくなるにつれ、開示する情報を増やしていきます。ある経営者は「情報を開示すればリスクを伴う。しかし、情報開示しない時のリスクと比べれば、情報開示をするリスクは、ずっと少ない」と言いました。

もう一つは質です。
一般的に「質」というと、現状の状態にプラスされるイメージがありますが、情報浸透度を上げるための「質」は180度逆です。拡大する組織に複雑なメッセージは全く意味をなしません。発信する情報の言葉を絞り込み、これ以上シンプルになり得ないところまで、絞り込むのです。

ある経営者は、この絞り込みの考え方を、次のように言いました。「社員は共通した文化的背景の集まりと見なしてはならない。文化的な背景が異なる人達の集団だと見なして言葉を発しなければならない」実際、これを意識して情報発信を実行すると、短期間で驚くほどの変化を実感することがあります。

実は、情報浸透度を維持するためには、もう一つ時間をかけてでも、経営者が取り組むべきことがあります。これはとても組織の運営にとってとても重要ですから、また別の機会に詳しくお伝えいたします。まず、上記2つから取り組んでみてください。


さて、御社の場合は、如何でしょうか?
リーダーは、伝えるための努力をし、情報浸透度が改善されているでしょうか?
それとも、従前通りのやり方で情報を共有を続け、混乱を引き起こしているのでしょうか?