代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第137回 集団と組織の違いがわからないリーダーは必ず組織をダメにする、その理由とは?

私が最初にM課長と話した時、M課長は残業時間ランキングの常連でした。社内でもダントツに長い残業の理由を聞くと「いやぁ、人が足りないので、ついつい手伝いにいっちゃうんですよ。」とM課長は、人懐っこい笑顔をしながら、左手で、頭をかきかき答えてくれました。

M課長は、入社以来、技術部門の長を務めています。人懐っこい一面がある一方で、仕事には自他ともに厳しい。うまくできない部下を捕まえては、30分、1時間と時間をとって教育も惜しまない。知識も豊富で、面倒見が良いと社内でも評判でした。

ところが、T社長のM課長に対する評価は厳しいものがありました。T社長曰く「本来なら、Mには、部長になって、もう少し広い視野でみてもらいたいんですけど、どうも、、難しいかなぁ、と。。。」そいうって、私の同意を求めるように視線を送りながら、背もたれに、もたれかかりました。

「もう一度、M課長と話しをさせてください。」とT社長にお願いしながら、私は、M課長の本来の役割は何か、社長に確認しました。社長は「それは散々Mに話してますが」という前置きをしつつ、話始めます。私はそれをメモを取りました。


後日、M課長に社長から聞いた役割をMさんに確認すると、Mさんは、姿勢を正して、「はい、それに間違いありません。」と。Mさんが私の目を見ます。そこで私はある質問をしました。すると、Mさんは、驚いたように飛び上がって、「そ、そんなことはありません。ただ、私は社長からこの部門を任されているので、、、、社長も最近は現場のことはあまりわかってらっしゃらないので、、、私はただ、、人でが足りないので。。。」としどろもどろ。

実はこの会話は今から7,8年前の出来事。今、Mさんは課長ではなりません。部長に昇進し、2年ほど前からは、執行役員として、全技術部門を統括しています。M&Aをした会社の実質トップも務めています。

自分の役割を逸脱して、部下の手伝いに時間を使い、残業につぐ残業をしていたM課長は、もう過去の話です。


昔のM課長は、部下を思う気持ちに突き動かされていました。部下が大変そうだと思えば、部下の仕事を手伝い。部下が陥りそうな落とし穴が少しでもある時は様々なパターンを想定して、説明をし、部下の足が取られないようにと、手順の説明をするのでした。

一見すると、とてもよさそうなのですが、こうした”優しい気持ちに突き動かされた”リーダーの下では部下が育たず、挙句、人不足なのに、人が辞めていくことにつながります。

マネジメントを知らない人がマネジメントに携わった時に、陥りがちな失敗事例の一つです。かくいう私も、その一人。悪気はなかったといえ、多くの人を、マネジメントの失敗事例に巻き込んでしまいました。

どうして、この問題が多くのマネジメント初心者に起こるかといえば、「大変そうな相手のことを慮る」とても崇高で、とても自然な感情と結びついているのです。

知らず知らず、この失敗事例にはまる、マネジメント初心者のリーダーは、まったく悪気がないのです。だからこそ、多くの初心者リーダーが繰り返し、繰り返し、このその失敗に陥るのです。


「相手のことを思うから相手の横に座り相手の仕事を手伝う」、このように人として美しい行為は、友人関係であれば、絶賛されるべきです。しかし、リーダーがこれをやる場合は、よほど戦略的な思考が背後にあってやる場合以外は、必ず失敗に終わります。

「大変そうな相手のことを慮る」感情自体は、まったく責められるものではありませんが、リーダーが部下の仕事をただ手伝うというのは、「部下の成長の機会を奪う」ことです。

実際に、1回、2回手伝ったところで、部下が、目の前でしおしおと干からびてくわけではありません。しかし、実際に、この失敗を経験したことがあるリーダーならわかると思います。1回、2回手伝うと、やめられなくなるのです。「今日は特別だから」とやっちゃうと、ずっと手伝い続けることなります。

こうして中長期で、部下の成長の機会は奪われ続けていきます。すると、見事なほどに、失敗事例に一直線です。この結果で、残念な部下が育っていきます。考えられない部下、自分で危険を想定しない部下、が出来上がります。判を押したように、いつもいつも、この結果になります。恐ろしい失敗事例なのです。


集団は、ただの人の集まりですが、組織は、役割をもった人の集まりです。組織に属する人には、必ず役割が紐づいているのです。

ところが、成果の出ない組織では、この役割の概念が当たり事になっていません。だから、役割から逸脱しても本人も気にしなければ、その周りも気が付かない。だから、リーダーが自分の役割そっちのけで、困っている部下を助けてあげるリーダーに誰も違和感を感じないのです。

こうしてみてきたらわかる通り、この理屈が分かってしまえば、リーダーがとるべき部下への対処の仕方が違ってきます。

本当に相手のことを慮るなら、相手が一人で生きていくだけの知識や技術をつけることを手伝うのが一番重要なことは誰にでもわかることです。

そこだけを見て、対処すればいいのですから。


昔のM課長は、このことを理解してから変わりました。組織で成果を出すために、明確に自分の役割を実践することになりました。一人、一人の部下の問題を個別に解決することから、共通の課題を見つけ出し、仕組みとして対応することに変化していったのです。

その前は、ただの気さくでいい人。そこから、正しい対処法を身につけて、組織で成果をだす人へ脱皮したのでした。

何が問題で、どこを変えるべきかわからければ、問題が解決するまでには、途方もない時間がかかります。更に言うなら、長い時間、悩み、試行錯誤を続けたからといって、正しい答えに行きつく保証もありません。

マネジメントは、自分一人が苦しい思いをするだけではなく、自分とかかわる過去、現在、未来の部下たちを巻き込みます。誰しもが陥る、落とし穴が何で、どのように対処するかがわかれば、自分も成長でき、部下をも成長させることができるのです。


さて御社の場合は如何でしょうか?

御社には、昔のM課長のような人はいませんか?「相手のことを思って相手の仕事を奪い、結果的に相手の成長の機会を奪う」短期的には美談ですが、中長期的には、それはそれは、恐ろしい悲劇的な結末となります。