代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第136回 あれほど評価が低かったリーダーがわずか1ヶ月で変わった!!そのカギは〇〇こと

Y社のM取締役は、3名の直属の部下を持ち、営業本部長も兼ねていました。そのM取締役は、競合他社では噂の人物。怒濤の営業攻勢で、あっという間に地域NO1座を獲得し、その後も一向に勢いの落ちるように見えない、驚異的な成長を実現した立役者として知られていました。

同業から羨望の眼差しで見られるM取締役にも、この1年間抱えている問題がありました。その問題とは、直属の部下3名の内、F部長のこと。

そのF部長はM取締役のひとつ年下のベテラン社員の一人。M取締役が、Y社に営業部長として転職して半年くらい後に、元いた会社からM取締役を追いかけて転職してきたのがF部長。

M取締役は、自分を慕ってくれたF部長を弟分として、目をかけてきました。拡大基調の会社であったため、社歴の長い人には役職がつき、Fさんもまた、主任、課長とトントン拍子に役職を上げていきました。

一方、Fさんの昇進には、常に疑義が向けられたそうです。営業成績はそこそこだったのです。もともとの会社でもそれほど営業マンとしての実績があったわけではありませんでした。
転職後も、営業成績はそこそこでした。M取締役も、課長まではまだしも、Fさんを部長にするのは、正直迷ったそうです。

とはいえ、社内事情に通じ、得意先との連携もそこそこ出来るFさんは、M取締役には組し易い部下でした。期待値も込めて部長に昇格させたそうです。「部長という役職」がFさんが変わるきっかけになればと願いもあった。」と。

M取締役の斬新な集客プランが次々に当たり、会社はその後も拡大基調でした。M取締役が転職した時には、6名だった営業部門も、50名を超える大所帯になっていました。


F部長の下に、2名の課長がつきました。その2名の課長の一人、H課長は相当なやり手。営業成績も5期連続社内トップを記録し、部下の扱いも上手。それでいて残業は、営業部門でも最も少ない。まさにスーパーマンでした。

そのH課長が、裏でF部長批判を激しく展開するようになってきたのです。しばらくは温和なFさんは、意に介さない体でいました。周りはやきもきしてみていたものの、大きな問題にはならなかったのです。

ところがある日、Hさんの部下が顧客からクレームを受けたことが発端でした。結果的にクレームの対処に不慣れな部下が対応したために、案件にかかわった業者さんにも火の粉が降りかかり大騒ぎになってしまったのでした。

その部下の直属の上司であるHさんにF部長が状況説明を求めたところ、Hさんが、ほとんど状況把握をしてなかったことに対して、Fさんが、Hさんに対して厳しく注意したところ、HさんがFさんに大変反抗的な態度をとったことで、対立が先鋭化しました。

M取締役が双方をなだめて落ち着いたものの、その日以来、ギクシャクした二人の関係が続くことになります。M取締役は、この二人が醸し出す嫌な雰囲気が、営業部全体の生産性にも影響がでることを懸念していました。

M取締役は、Hさんが自分の上司であるF部長をなじったことに対して、Hさんを厳しく叱責をしました。ところが、HさんがF部長に不満を抱えている点は一理あったのです。

実際のところ、F部長は、部長としての本来の仕事をしていませんでした。F部長は、未だに自分の古い顧客対応に時間の多くを使っていました。自分の部門の目標を部下と共有したり、課題の抽出、その課題に対する打ち手を出すといった管理職の仕事ができてなかったのです。


F部長に部長としての仕事をするように、M取締役が注意したのは、今回が初めてではありませんでした。M取締役によれば、注意すると、一時はよくなるものの、数週間すると、結局元に戻ってしまうのでした。そして、そのことに2人の課長気づいていました。

もちろん、M取締役が、それであきらめたわけではありませんでした。「改善できないのならば部長職から解任する」とF部長に詰め寄り、1度ならず、何度もの伝えていました。

そうするとFさんは、きまって神妙な面持ちで「M取締役に迷惑をかけていること、組織に迷惑をかけていることに対して本当に申し訳ない」と心からの謝罪の言葉を述べるのだそうでした。

その神妙な面持ちのまま「いつでも解任してもらっても構わない」というF部長にいわれると。さすがにM取締役も、情的な部分がくすぐられ「辞めるのはいつでも辞められる、悪いと思っているなら、改善しろ!」といってこの対話が終わるのだとか。

これをかれこれを3、4回は繰り返しているのだとか。いよいよここに来て、M取締役は
決断を迫られていました。そんな状態の時に、M取締役と出会ったのです。


通常は、こうした問題も、ご自身で解決してもらうのですが、もう後がないという状況でしたので、私も直接、関わることにしました。実際に、私自身も、F部長と話してみました。人なつっこいF部長。よく言えば欲がない。悪く言えば、ちゃらんぽらん。

数時間F部長と話をして、「これならF部長も、改善行動を続けられるはず!」というツボがいくつか見つかりましたので、F部長に対する処方箋を共有して、M取締役に取り組んでもらうことにしました。


M取締役に取り組んでもらった内容は、F部長の部長として絶対にやるべきことを徹底的に
絞り込んでもらったのです。もちろん、日々のタスクは、20も30もあります。ただ、絶対に部長として続けるべきことをひとつに絞ってもらいました。

この策をM取締役にお話した時のM取締役の怪訝性の顔は今でも覚えています。アニメに出てくるように、M取締役のあごが15度左に傾いたのですから。


もう後がない、「これが最後の賭け」と、M取締役も渋々OKしました。わずか1ヶ月で成果が出始めました。F部長はM取締役の指示通りに、あることを続けることができたのです。笑顔で報告してくれるM取締役に私はいいました。「まだ喜ぶのは早い」と。

相手が一般社員だったなら、もうこれで十分ですが、Fさんは部長職。なので、これではダメなのです。Fさん自ら動けるようになるまでが本当の勝負でした。

それから3ヶ月後、M取締役から報告をいただきました。最後の1ヶ月は、M取締役からのチェックがなくても、Fさんは、当初の指示を守っただけではなく、以前にお願いしていたことにも自ら取り組み始めていました。

F部長率いる、第2営業部は、史上最高の単月売上を記録し、H課長につづき、もう1名の課長も売上げトップ者リスト名を連ねたのです。


M取締役のような方は、成長企業には必ずいます。そして、彼のように、会社の成長を支える強者リーダーは、部下にも自分と同じことを当たり前に要求します。全く悪気はありません。むしろ「自分ができたのだから、誰でもできるはず」と本気で思っている方もいます。すると、当然、「お前もできるだろう!」となるわけです。

もちろん、それで相手もできるなら良し。ところが、相手が同じように出来ない場合でも、自分の言っていることがおかしいとは思いません。相手がおかしいと思います。なので、更に細かく指示がでるのです。

受ける側にしてみると、やるべきことがドンドン増えていく。それはすなわち、できないこが増えていきます。完全に悪循環に突入です。

やれと言ってできない相手に、「更にこれも、更にあれも、」と締め上げたところで、上手くいくことはありません。まったく逆なのです。増やすのではなく、徹底的に絞り込む。そして、ひとつは出来るようにする。すると面白いようにもう一つ、もう二つとできるようになっていくのです。

成果が持続する組織マネジメントの知識を手にしているリーダーならば、当然のごとく部下のやることを絞ります。一方、マネジメントの知識をもっていないリーダーは、知らず知らず、良かれと思って、相手を追い回して、「やれない事」「できない事」を山のように積み上げていってしまいます。


さて御社の場合は如何でしょうか?

追い詰めてもできない相手を更に追い詰めるリーダーが多いでしょうか?それとも、追い詰めても動かない相手には、別の手段を使えるリーダーが増えているでしょうか?

組織の生産性は、リーダーのマネジメントに完全に依存します。御社のリーダーは、マネジメント技術を獲得する方向にありますか?