代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第103回 これからの経営幹部に必須の能力は?

S部長は、ここ数年業績を急拡大させているY社にあって、社長から次期リーダーの一人として期待されている方です。先日面談した折、現在と過去を振り返ってこんなことを話してくれました。

「とにかく私が若い時は、教えられることなんか何もなく、いきなり現場に放り込まれましたし、(わからないことがあって)聞いたところで、『自分で考えろ!』と罵られたもんです。」と言うと普段のニコニコ顔。

そして「まぁ、腹が立ちましたよね。自分は『何くそ!この野郎!』って思えるから良かったんでしょうけど、みんながそうじゃないですから」とプラス面とマイナス面をしっかりと分析。「まぁ、優しくすればいいってワケじゃないですから、ここが難しいですよ」と、腕組みしながら、机に頭がつくほどに大きく傾けて、言いました。


Y社はここ数年30%以上の成長を続けています。社長肝いりの営業部隊の増強が功を奏して、案件獲得能力が飛躍的に伸びた結果、技術者の稼働率は飛躍的に上がりました。現場の稼働率は上限に近づき、ここから先、売上げ拡大を続けるためには、人材獲得、人材育成が鍵というのは、経営幹部全員が共通認識として持っていました。

追い風に乗り、一気に売上げを拡大させるためには、”如何に早く技術を身につけさせるか”、
この一点にかかっているのです。一方、急拡大中の企業なら、この課題は共通課題です。しかし、その課題の解消法がわからず右往左往しているのです。

S部長は自らの苦い経験から、不安に硬直する部下達に対して更に叱りつけることはしてきませんでした。少しでも状態を改善できたらという思いから、ストレスを貯めている部下がいると、飲みにつれていって発散させ、働く意欲改善に心を砕いていたのです。

しかし、この話をしてくれた時、S部長自ら指摘していましが、こうした活動は、課題への解決法とはいえないものでした。コンサルティングを受けるまでは、どうやったら効果的に部下に教えたり、関わることができるのか、悶々とする日々が続いていたそうです。

「今回のコンサルティングの中の対話の部分は、本当に役に立ちましたよ。」「自分も、いつのまにか、(かつての自分の上司のように)相手にガンガン指示ばかり出してましたから」
というのが、面談を重ねる中でS部長から繰り返し出てきた言葉です。

「(年上の部下)Mなんか、何言ってもダメだったのですけど、あの対話法を使ったら、
自分から計画出してきましたからね。びっくりしましたよ。本当に何を言うかではなく、
どういうのか、ほんの少しの違いで全く変わりますよね。」


役員の中には、S部長の態度は役職に似つかわしくないと顔をしかめる人もいました。そんな役員達も認めるのが、S部長の人当たりの良さ。S部長より年下の部下からは、ちょっと年上のちょい悪兄貴として好かれていました。

そのため、年下の部下の扱いには、自信をもっていたS部長でした。ところが、人手不足により若い技術者の応募は限りなくゼロに近い状況で、部下の中で数が多いのが年上の部下。そして、その割合は、年々上昇しているのです。

年上の部下達はS部長にとっては頭痛の種でした。ちょっと緩くすると、たちまちつけ上がり、かといっって厳しく対応するとへそを曲げてしまうのが、年上の部下達で、ほとほと攻めあぐねていたのです。

勘が働くので、トラブルになりそうな人が事前にわかるそうですが、トラブルを未然に防ぐ手立てが無い状態でした。会社で指導的な立場にあるメンバーがトラブル対応にかり出される比率は嫌でも上がる状態にあり、明るいはずの会社の未来像に黒い影がつきまとうようになっていたのです。


そんなS部長に年上の部下を動かすための技術を身につけてもらったところ、まるでオセロの石をひっくり返すように相手の反応がまるで変わるとう体験をしてもらいました。

先ほど「びっくりした」というS部長の言葉を紹介しましたが、年上の部下の変化にはS部長だけではありません。同じことを体験した多くの企業の経営幹部が「驚き」として、この体験を表現します。

数年間何も変わらなかった年上の部下が、ちょっとした技術を使うことで、まるで違う行動を取り始める状況に遭遇すると、喜びよりも、「驚き」が勝るというわけです。


私たちは、知らず知らず、やられたことを繰り返します。例えば、親が自分にしたように、知らず知らず、子供に同じように接します。自分も子供時代にさんざん親に反発していたにも
関わらずです。

これは、家族だけではなく、組織の中でも同じことが起こります。その結果、悪気なく、上司にされたように、部下に接してしまうのです。

組織を考える時、私たちは、この事実をよく認識した上で、手を打つべきなのです。無自覚のコミュニケーションスタイルの伝播を断ち切らねばならないのです。

通常、「悪気のない間違った努力」はもっとも手を焼く問題ですが、ことコミュニケーションに関しては、比較的抵抗感なく改善の方向にもっていくことができます。


「組織として、どのようなコミュニケーションスタイルを伝播させていきたいのか?」それを考えた時に、経営幹部のコミュニケーションスタイルは重大な意味を持ちます。なぜなら、経営幹部のスタイルが組織全体に伝播していくからです。

「経営幹部が部下にどのように振る舞うのか?」少し先の御社の有り様を占う上で最も重要な
要素です。


さて、御社の場合はどうでしょうか?
御社の経営幹部は、部下を活かし、成長支援する術を手にしているでしょうか?
それとも、「やり方」が知らないとはいえ、無理、無駄、無謀な対応を続けているでしょうか?