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代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第173回 マネジメント技術の結果は、社員の顔に出る

以前、ご支援していた会社に、長い低迷期間を脱して、トップセールスマンに上り詰めた営業職の方がいます。

ご支援先の会議室で、次の順番のリーダーがいらっしゃる前にメールの返信作業をしていると、背後でドアをノックの音が聞こえました。「どうぞー!」と私。「失礼します!」とドアが開きました。

会議室に入ってきたMさん。何やら顔つきが違います。「宜しく御願いします」といつも通りのご挨拶をしてお互いに着席。

待ちきれない様子でMさんが話し始めました。「木村先生がずっと教えてくれていた自分の状態を管理することの大切さ、今、思い知らされています。」といってまず満面の笑顔でニッと笑います。そして、「実は、今・・」と、この1ヶ月にあった出来事を手振り身振り交えて、そして終始笑顔で教えてくれました。

 


 

Mさんは、今、6名の課員を率いる、社内トップチームのリーダーです。しかし、最初にお会いした頃、Mさんは、問題児扱いされていました。当時、私はMさんの上司の課長と面談をしていました。その課長から度々相談を受けていたのがMさんのことでした。

課長は、とても熱心に課員を支援する方でしたが、Mさんには手を焼いていたのです。「人物としては人の良い人だが、中途半端で何もなし得ない。」と相談を受けていました。しばらくすると、社長からその課長さんが、Mさんのことで、時間を取られ過ぎているので、Mさんのことを直接サポートしてくれないかと依頼を受けました。

私は、「課長にとっても、マネジメント技術の向上のタイミングなので、様子を見ましょう」と進言したのですが、課長は、業績急拡大の流れで、中途採用の営業マンの立ち上げに集中させるために、それ以外の付加を減らしたいというご意向を社長から承りました。「それでは」ということで、私がMさんの面談をすることになったのです。

Mさんとの面談は、最初は今でもよく覚えています。お互いに自己紹介を終えて、Mさんから、仕事の状況や、自分が考える課題について話しを聞いていると、ふとMさんが沈黙したのです。そして、思い詰めた顔でこう切りだしました。

「営業は自分に向いてないので、退職も考えています。課長には本当に申し訳ないのですが、ちょっともう無理かな、と思っています。」と。

 


 

そのMさんが、半年後には、冒頭の様子に変わっていたのです。「もう退職したい」から「絶好調」まで、ここまで変わるものかと、驚くやら、嬉しいやら、なのですが、私が特別の才能があるわけではありません。

Mさんと面談する中で、在るとき、Mさんがぼそっとつぶやいたのです。「もともとはリーダーとして、自分も課を率いてみたい、と思っていた。」と。そこで、「それならば、マネジメント技術を獲得しましょうよ。」と私が他の方々にお伝えしている、マネジメント技術を使ってMさんとの面談を繰り返しただけのことなのです。

マネジメント技術は、このように社員の顔を変えていきます。これはマネジメント技術を導入した企業のトップが異口同音におっしゃることです。

 


 

少し話しは変わりますが、私が以前、急成長ベンチャーに在籍していた時のことです。笑い話のような本当の話の一つが、「先週採用された人が、翌週、新しい社員を採用する側として、採用希望者の採用面接をしていることが当たり前のように、全国各地で起こっていた。」ことです。このような話しは、後にも先にも、聞いたことがありません。そんな、あり得ない話しが自分の周りで次々と起きていましたが、全てが新鮮で、楽しいとしか感じませんでした。当時、朝9時から終電ギリギリまで働いていましたが、苦しいと思ったこともありませんでした。

ところが、会社の業績が悪化と共に、全てが逆回転し始めました。今までOKだったことが、急にNGとなり、現場で大混乱が始まりました。更に、現場のリーダー職にある人達が、業績の悪化の責任を追求されるようになりました。現場のリーダー職にある人達は困惑の極みにあったはずです。会社の言われた通りに身を粉にして働いてきたのに、いきなり罪人扱いされる事態に、憤慨している人達も多くいました。

ある日、本社ビルに、現場のリーダー達が集められた時、私は一人の男性の顔を見て驚いたのです。その男性は、自分とほぼ同期で入社した人でしたが、最初はその男性が、私の知っている同期の方だと気がつきませんでした。

なぜなら、顔が全くの別人になっていました。否、彼は、鬼になっていました。

 


 

後に、その彼が長くストレスを抱え、振る舞いも、顔も全く変わってしまった顛末を聞きました。ストレスや怒り、憤怒で、彼は別人になっていったのです。鬼の形相という言葉を聞いたことがありましたが、鬼の形相というものは、実在するのだ、とその時、強く思ったのを覚えています。

眉間に深い深いシワがくっきりと刻まれ、顔は、ゴツゴツというかムクムクというか、昔話に出てくる鬼や鬼の面に在るとおり、凹凸がはっきりしていました。

もともとの彼は、見るからに優しそうで、好青年風。笑顔が爽やかでした。時に誰かにちょっと強く言われると、どうぞどうぞと、何でも譲ってしまいそうな、人の良い方でした。その彼は、あの鬼の形相の奥底にまだ残っていたのか、完全に変わってしまったのか、もう知るすべはありません。

 


 

その会社の業績はその後も更に混迷の度を深めていったのですが、その過程で、私の周りの多くの人が、身体を壊し、精神を壊して、次々と会社を去って行くことを目の当たりにしました。

ある年の3月に、月間赤字20億円を計上しあわや倒産寸前まで行きました。そこからその会社は、奇跡的な回復を遂げました。月間20億円赤字だった企業は、その1年後には単月黒字を実現したのです。この間に何があったかは、また別の機会にお話しましょう。

黒字化して、会社が成長軌道に乗り始めると、今度はまた、自分の周りの社員の人達の顔が明るくなっていきました。

 


 

経営の善し悪しは、数字を見れば判断できます。ただ、たとえ営業利益が好調だったとしても、多くの社員の顔が沈んでいるならば、何か深刻な課題が隠れている、ということです。「そんな主観的な判断で、経営を語れるのか?」そのご批判は甘んじて受けましょう。

ただ、創業経営者の方々には、このことをよく分かってらっしゃると思うのです。社員の顔を見たら、わかるのです。

人的資本という言葉が最近よく言われるようになりました。社員の明るい表情を意図的に生み出すことこそが、人的資本を最大限に活かすために本当に必要なことだと私は考えています。マネジメント技術の成果は、社員の顔を見れば、一目瞭然です。